子爵家と民族競技3『ガレージ・ニゴー』
◇◇◇◇◇
ニゴー家の屋敷に着いた。
テックアート伯爵家ほどではないが、やはり貴族の家だけあって結構な大きさである。
ちなみに門番のマッスル具合はテックアート家より上だった。
さすが武闘派貴族といったところか。
「待っておったぞ! グレン君だな! よくぞ来てくれた!」
馬車から降りると、左目に眼帯をつけた角刈りの爺さんが立っていた。
その爺さんはとてもマッチョだった。
はち切れんばかりの筋肉が服を着た状態でも圧倒的な存在感を放っている。
ここまで育った筋肉を見るのは異世界に来て初めてだ。
「あれ、お爺様? なんで屋敷の外で待ってるの?」
「うむ、悠長に待っていられなくてなッ!」
エルーシャがお爺様と言ったということは、この人が俺を呼び出したニゴー子爵か。
パッと見た感じではディオス氏やニッサンの領主みたいな変態要素は窺えない。
まだ健康的で陽気な老人って印象だ。
「ワシがニゴー子爵家当主、ガレージ・ニゴーじゃ!」
よく通る声で、眼帯マッチョのニゴー子爵は俺に挨拶してくる。
「わざわざ呼び出してすまなかったのう。実は以前、孫から君と街道で会ったという話を聞いておってな。かねてより君に興味があったのじゃ!」
ニゴー子爵がハキハキした口調で俺に言ってきた。
街道っていうとアレか? 王都に向かう途中でエルーシャに初めて会ったときのこと?
決闘を見たからという話だったけど、発端はエルーシャが吹き込んだからじゃん……。
エルーシャはきょとんとした顔で気づいてないけど。
「マーサカリィ家の倅との決闘は大した胆力であった。敵と対峙したなかであの堂々とした佇まい。揺るぎない強者の余裕と風格。アレでワシは君に会いたいという気持ちが抑えきれんくなってしまったんじゃ……」
熱に浮かされたように語るニゴー子爵。
うーん、まだ変態ではない……と思う。
脳内で審議を行ないつつ。
まあ、俺は結構な歓迎をされているようだということはとりあえず理解した。
◇◇◇◇◇
待ち構えていたニゴー子爵と対面後、俺は応接間的な部屋ではなく屋敷の裏にある広場に通されていた。
「100、101、102ッ!」
「あと一本!」
「プッシュ! プッシュ! ワンモア!」
そこは鍛練場のようで、木刀や土嚢、防具武具が置かれ、真剣な表情で訓練をする騎士たちがいた。
月並みな言葉だが、どの騎士も皆すごい体格をしている。
厳しい鍛練を積んで練り上げた肉体であることが一見しただけで伝わってくる凄まじさだ。
「孫から聞いた話によると、君は木を体当たりで薙ぎ倒すことができるそうじゃな?」
騎士たちのトレーニング風景を眺めていると、ニゴー子爵が訊いてきた。
…………?
体当たりで薙ぎ倒す?
ああ、アレか。
エルーシャたちの盗賊退治に着いて行くため、実力証明にそういうパフォーマンスをしたことを思い出した。
「フフフ……よければその力、ワシの前で見せちゃくれんかのう?」
「え?」
「ホレ、あそこじゃ」
ニゴー子爵は訓練場の一角にある、離れのような建物に俺を案内する。
建物に入ると、そこは吹き抜けの広間になっていた。
床に土が敷き詰められており、部屋の中心には縄で丸い円が拵えてある。
何かの闘技場だろうか……?
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