精霊と決着2『祝福』



◇◇◇◇◇




「つまり、ハムファイト君が負けを強要したと?」


「そうですよぉ、だってあんな一方的で無抵抗なんてぇ、おかしいですもん!」


「「「ふむぅ……」」」


 現在、決闘はまたもや中断され審議が行われていた。


「ですが証拠が何もないのでは……」


「ハムファイト君も否定していますしね」


「貴女たちの主観だけでは事実と断定するには弱すぎます」


 審判たちは芳しくない反応をする。


 まあ、そりゃそうか……。


 女教師の尽力で抗議の場を設けることはできたが、ハムファイトが自白でもしない限り言った言わないの泥沼にしかならない


 ハムファイトの様子をちらっと見る。


 やつはふてぶてしく堂々と立っていた。


 このまましらばっくれる気満々だな。


 判定用のカメラとかがあればなぁ……。


 やっぱりドライブレコーダーは必要ってことだ。




「失礼ですが、貴女は……彼らを信じているのですか?」


 審判たちとのやり取りを静観していたラッセルが割って入り女教師に訊ねる。


「そうだよぅ! この子たちはわたしの生徒なんだよぅ!」


「はぁ……仕方がない」


 ラッセルは大きく溜め息を吐くと、


「教師である……貴女の言うことでなければ下らないと一蹴していたところですが、この場は僕の力を使って真実を明らかにしましょう。今回の条件なら恐らく何とかなるはず。すべてをはっきりさせたうえで次の試合を行なおうじゃないですか」


 ラッセルの言葉に『おおっ!』と審判や女教師たちが声を上げた。


「ラルキエリ、どういうことだ?」


「彼は……寵児は精霊の寵愛を受けて力の祝福を得ているのだよ? 恐らく、周囲に漂っている精霊に当時の状況を訊ねるつもりなのだろうよ?」


 精霊の祝福? よくわからんが、遡って事実究明ができるってことか?


 なんだよそれ、すごいじゃねえか。


 これですべてが明らかになるな、と思っていたところで異議を申し立てる者がいた。


「ま、待ってください! そんなことをする必要はないでしょう!」


 必死に止めに入ったのは渦中の容疑者、ハムファイトだった。


「彼らは実力で負けたことを認めたくないだけなのです! 戯言など捨て置きましょう! ラッセル様は私の勝利を疑っておられるのですかっ!?」


「もちろん信じている。だからこそ下らぬ言いがかりはすっかり払っておいたほうがいい。君もあらぬ疑いをかけられたままでは気分が悪いだろう? 心配するな。君の無実は僕が証明してあげるよ」


 ラッセルは優しく微笑んでハムファイトの肩に手を置く。


「え、ええ……はい……」


 ハムファイトは青白い顔でガクガク震えだした。


 もう半分答え合わせみたいなもんじゃねーか……。


 ここまであからさまでも自信たっぷりなラッセルは何なの?


 もしかして自分たちに都合のいい結果をでっちあげるつもりなのでは?


「精霊の言葉を歪めて騙ったとなれば、彼は精霊からの祝福を失うかもしれない……。そんなリスクを犯してまで事実を隠蔽するとは考えにくい。そこは信頼していいと思うのだよ?」


 へえ、そういうもんなんだ。


 じゃあ、ラッセルってもしかして……。


「というか、こういう話はエルフである君のほうが本来詳しいはずではないのかだよ?」


「…………」


 そういや里の学校で習った気もしないではないね。


 まあいいじゃないか。





「風の精霊よ。僕に真実を教えておくれ……」


 ラッセルが手を前方に伸ばしながら囁いた。


 輝く粒子が溢れて彼の全身を覆いつくしていく。


 綺麗な光だな……。女神様がいた部屋を思い出す優しい光だ。


「ふむふむ……なるほど……」


 目を閉じて見えない何者かと対話するラッセル。


 こっちには何も聞こえないが。


 祝福を受けている彼にはいろいろ聞こえているのだろう。


 やがてラッセルの輝きが収まった。


「どうでしたかな?」


 審判の一人がラッセルに訊ねる。


「まさか……ハムファイト君が不正をしていたなんて……」


 精霊からすべてを聞いたらしいラッセルは頭を抱えながら崩れ落ちた。


 あの落ち込み具合からして彼は関与しておらず、ハムファイトが独断で決めたことのようだ。


 明らかに不自然なキョドリっぷりを見ていながらよく信じていられたもんだよ。


 やっぱり、ラッセルってバカだったんだな……。


「なんと! これは由々しきことですぞ……」


「とりあえずナイトレイン校長に報告を……」


「まったく、とんでもないことをしでかしてくれたもんだ……」


 事実を聞いた審判たちが対処のため速やかに動き出す。


 おうおう、大事っぽい感じになってきたじゃないの。


 つか、精霊が言ってたよってだけで証拠になるのか。


 それも不思議な気分だな。


「当然なのだよ? 精霊は神にも通ずる高尚な存在。その寵愛を受けた者が名代として告げた言葉は何よりの信憑性を発揮するのだよ? そもそも精霊というのは天界の――」


「とにかく信頼度抜群ってことなんだな?」


「…………」


 なぜかムッと黙り込むラルキエリ。


 さては簡潔にまとめた俺の頭脳に嫉妬したな?



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