精霊と決着1『ハムファイト』



 三回戦。それは一回戦や二回戦とは真逆のワンサイドゲームになっていた。


「ふはは! ハムファイト家の長男である私が平民風情に後れをとると思ったか!」


「くっ……!」


 見たままを言えば、ツインテ少女はハムファイトという生徒からボコボコにされていた。


 上手く致命傷は避けているが、それでも軽くないダメージを続けざまに与えられている。


 おかしい……。どうなっている? どこか捻ったのか? 


 ハムファイトに初撃を避けられたと思ったら、そこから一気に彼女の動きが悪くなった。


 しかもその後に追撃をせず、相手から距離を取って様子見をするなんて……。


 間を空けて呪文の構築に必要な時間を相手に与えるなど、遠距離からの攻撃手段を持たない彼女たちが一番取ってはいけない行動だ。


 事前のミーティングでもそれは何度も確認していたはず。


「これは圧力を使われたかもしれんのだよ……」


「どういう意味だ?」


 悔しそうに唇を噛みしめるラルキエリに訊ねる。


「どうもこうも、言葉の通りなのだよ? あのハムファイトとかいうやつが貴族の地位を使って彼女に抵抗しないよう迫ったのではないかという話なのだよ?」


「は? そんなのがアリなら貴族と平民は決闘なんてできないじゃねえか」


「普通だったらありえないのだよ? 伝統ある学園で、それもナイトレイン校長の御前で行われた決闘でイカサマなど前代未聞もいいところなのだよ?」


 あのエルフ校長って権威ある存在なんだ……。


 そんなすごい人なら異変を見抜いてたりしないだろうか。


 僅かに期待して様子を窺う。


 お、目が合った。微笑みながら手を振られた。ダメだな、こりゃ……。





 どうする? 止めるか? 


 けど、決闘は対戦者本人の申告以外では降参が認められないルールだし……。


 ツインテ少女が自分から負けを認める気配はない。


 このまま彼女が傷つけられるのを見ているしかないのか?


「ぷんぷんっ! ちょっとラッセルくんに文句言ってくるよぉ!?」


 事態を知って憤慨した女教師がズカズカ歩き、相手の陣地まで抗議に向かってしまう。


 証拠もないなかで連中が素直に認めるとは思えないんだが……。


「おい、行っちまったぞ」


「他に手段もないし、とりあえず彼女に任せてみるのだよ?」


 まあ、教師である彼女が言うなら多少は変わるかもしれないな。


 そういうわけで俺たちはしばらく静観することにしたのだが――




 それからの試合は酷いものだった。


 ハムファイトは愉悦に満ちた表情で無抵抗のツインテ少女をいたぶっていく。


 戦闘不能にさせないよう、少しずつ痛めつける意地の悪い攻撃が連続する。


 明らかに勝利ではなく、相手をなぶることを目的とした戦い方だった。


「ま、参り……」


「わはは! プチサンダー! プチサンダー! またまたプチサンダー!」


「きゃああああああっ!」


 限界まで痛めつけられ、ツインテ少女がいよいよ負けを認めようとしたタイミングになるとハムファイトはすかさず魔法を放ち、最後まで言わせないようにする。


 そういう攻撃を何度も何度も繰り返す。


 ……ちっ、性根が腐っているにもほどがあるぞ。


 ラッセルがいう魔導士の誇りってのは、こういう輩に好き放題させることなのか……? 


 ふざけんなよ……!




 そして――


 とうとうツインテ少女は立ち上がる力もなくなって倒れ、審判が試合終了を告げた。





「ご、ごめん……グレン君……みんな……あいつが、反抗したらあたしの村を……って……」


 ツインテ少女に駆け寄ると、彼女はぐったりしながら申し訳なさそうに言う。


「よく耐えたな、ゆっくり休んどけ」


 卑劣な魔法攻撃を何度も浴びた彼女の制服はボロボロだった。


 俺は回復魔法をかけながら上着をそっと被せてやる。


 身体は回復しても気力は尽きていたのか、ツインテ少女は安心した表情で静かに目を閉じた。



「…………」

「…………」

「…………」



 ポーンたちは何ともいえない面持ちになっていた。


 先程までの戦勝ムードはどこへやら。


 せっかく貴族生徒たちを実力で追い詰めて自信を持ちかけていたのに。


 ここにきて抗えない身分の差を見せつけられ、再び負け犬根性が出始めている。


 くそっ、やってくれたな。


 次の貴族生徒も同じような手を使ってこないとは限らない。


 無抵抗で小デブが痛めつけられるなら四戦目は棄権させたほうがいいかもしれん……。


 幸い、こっちは二勝してる。


 俺が相手の大将ラッセルをブッ飛ばせば最終的な勝利は俺たちのもんだ。


「ラルキエリ、次の試合なんだが……」


「グレン君、アレを見るのだよ?」


「ん?」


 ラルキエリに言われて目線をやる。


 そこには女教師が飛び跳ね、大きく手を振って呼びかけている姿があった。


 審判団も集まって何やら騒々しくなっている。まさか抗議が通ったの? マジで?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る