結末と予兆1『ええ!? グレンそうだったの?』

 領主の屋敷がとても住める状態ではなかったので俺たちはニッサンの町にある高級な宿屋に移動していた。


 宿代は領主持ちだ。俺はびた一文支払っていない。


 御令嬢たち一行も同じく領主の支払いで泊まっているが大丈夫なんだろうか。


 領主のおっさん、屋敷があんなでお財布状況厳しいんじゃねえの?


 心配して訊いてみたのだが、


『いや、宝物庫は無事だったからね。も、問題はないぞ……問題はない……んだっ!』


 遠い目をしてヤケクソ気味だった気もしないではない。


 だが、問題ないと言い張るので素直に好意に甘えさせていただくことにした。


 人間ってのはたまに身を滅ぼすような見栄を張るよな。


 俺の知ったことではないが。





 俺は現在、女騎士とともにダークエルフの少女が軟禁されている部屋に向かっている。


 ダイアンは衛兵たちに引き渡したのだが、牢屋へ移送中に舌を噛んで自害――したように見せかけて逃走した。


 衛兵を慌てさせて隙を作り、夜の街に消えて行ったそうだ。


 何度も同じ手段に引っかかるとか……。俺たちが無能なのか、やつがすごいのか。


 結局、ダイアンのトリックのタネはなんだったんだろうな。


 今となっては想像に思いを馳せることしかできない。


「すまん、待たせた」


 部屋に入ると見張りの衛兵が二名、それと屋敷で苦難を共にした(?)御令嬢やルドルフ、領主たちが待っていた。


 ダークエルフ少女は魔力を封じる拘束具をつけられてベッドの縁に座らされている。


 もちろんこれには意思を奪ったり隷属させたりする効果はない。


「腹はいっぱいになったかな?」


「ああ、生まれて初めて満腹って言葉を知った気がするよ」


 領主に訊かれ、少しだけポッコリした腹部を擦りながら答える。


 あれからガス欠で倒れそうになった俺は急いで食事を用意してもらい、さっきまでひたすら宿の食堂でカロリー摂取をしていた。


 里を出た直後は輩ども、道中でゴブリン、日中はルドルフ、夜はハイオークとそれぞれ戦闘。まったく、エネルギー消費が激しい一日だったよ。


「エルフは小食で肉は好まないと聞いていたんだが……」


 俺の食事に同席していた女騎士がげんなりとした顔で言った。脂っこい肉料理をたらふく食っていた俺を見て胃もたれしたらしい。


「なあ、グレン殿は本当にエルフなのか?」


 女騎士、失敬だな。俺は前世も今世もエルフだぞ?


 いや、前世はトラックだった。別に深い意味はない。


「こいつ、トラックエルフっていう新種らしいぜ」


「ええ!? グレンそうだったの?」


 ジンジャー、ルドルフの言葉を真に受けるな。そいつが勝手に言ってるだけだ。


「それで、何か有益な話は聞けたのか?」


 俺が訊くと隊長が一歩前に出て代表として説明を始める。


「まず、報告するべきことが二つある。グレン殿が食事をしている間に衛兵数名と奴隷商の店に行ってきたが、すでにもぬけの殻だった。奴隷は残されていたが、すべて正規ルートの奴隷だということが確認された。恐らく非合法の奴隷たちはもともといなかったか一緒に連れていかれたのだろう」


 手際がいいな。いつ見つかってもいいように準備していたのだろうか。


 領主の目をかいくぐって活動していたんだからそれくらい要領よくやれても不思議じゃないか。


「それからもう一つ。さきほど王都からテックアート家の使者が来た。その者によるとダイアンの死体が王都内で発見されたそうだ」


「ダイアンが死んだ? それに待て、王都でだと?」


 さっきまでニッサンの町にいたやつがどうして死体となって離れた地で発見されるのだ。


「検死の結果、死体は死後一か月ほど経過していた。これは我々が王都を出立するより前からダイアンが亡き者だったということになる」


「死体が歩き回っていたってことか? 気持ち悪い話だな……」


 奇怪な話だが、現状では結論を出せない。


 続いてダークエルフ少女から聴取したことが話される。


「彼女は首輪をつけていた頃の記憶は断片的にしか覚えていないらしい。わかったのは奴隷商……ヴィースマン商会が王都にも拠点のひとつを持っていることくらいだった」


「そうか……」


 隷属の制限が強ければありえる話である。


 予想の範囲内だったので落胆はしない。


 むしろたったひとつでも情報が入っただけ僥倖だ。


 ただ、ダークエルフ少女は浮かない顔をしていた。

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