チンピラと冒険者ギルド6『必ずお前から慰謝料をもぎ取ってやる……!』
「あーあ。どうやら今回はあんたの負けみたいだね」
やんちゃそうな八重歯の少女がトコトコやってきてルドルフの肩にポンと手を置く。
そうそう、ついでにもうこんなことをするんじゃないよとそいつに言ってやれ。
「ほら、今回はダメでも次の獲物を見つければいいじゃん」
……おい、そっちの方面で慰めるな。
獲物を見つけさせようとするな。
ネバーギブアップの精神は大事だが、この方面では発揮しちゃいけないだろ。
この女、ダメ男を育てるマシーンか。クズを甘やかすんじゃないよ。
ご主人の友達にもいたっけなぁ。
自分は風俗で働き、パチンコ狂いの男に貢いで『次は勝てるよ!』とか謎の励ましをしてる女の子が。
「ごめんねー、エルフのおにーさん」
少女は運転手がよくやるチョップの形で手の平を立て、ペロリと舌を出しながらウィンクを飛ばしてきた。
……この子はそういうタイプじゃなさそうだな。
どちらかというと、アホな男を泳がせて道化のように踊る様を見て楽しんでるっぽい。
きっと悪女だ。悪い女だ。どちらにしてもロクでもないな。
「覚えてろよ……必ずお前から慰謝料をもぎ取ってやる……!」
女とは対照的にルドルフはギロリと怒りのこもった視線を力強くぶつけてくる。
お前は慰謝料大好きか。
なんなのだこいつらは……。人間の闇を体現して生きているような連中だな。
正直、二度と関わり合いになりたくない。
俺は社会の淀みたちから目を背け、身を翻して一人で受付へ向かった。
―――――
どこが初心者向けのカウンターなのかわからなかったので俺は適当に真ん中を選んで進んでみる。
すると列を作っていた冒険者たちは類まれな一体感を出してモーセの十戒のように散って道を開けた。
なぜだ? このギルドでは初心者を優先する決まりになっているのだろうか。
それとも譲り合いの精神の権化が集まってるのかな? 正当な並び順を明け渡すのは優しさとはちょっと違うと思うぞ?
まあ、せっかく譲られたんだしここはフリーパスで行かせてもらうけど。
「ギルドに登録をしたいんですけど」
「ヒィ……!」
俺が要件を述べると受付のお姉さんは悲鳴を上げて椅子から転げ落ちた。
そしてそのまま業務をほっぽり出して後方の扉の向こうにある事務室へ逃げていった。
「…………」
俺のギルドへの登録は……? おいおい、真面目そうな人に見えたのに職務放棄か?
釈然とせず首を傾げていると背後から声が聞こえてくる。
『あいつ終わったな』『そりゃ逃げるぜ』『素直に金を払っておけばいいのに』
…………なんのこっちゃ。
振り向くと未練がましく視線を送ってきているルドルフ一味の姿が。
こいつらのせいかよ……。まだ俺に執着していたのか。
どれだけ粘着質なのだ。
構っても仕方ないと思い、俺は無視を決め込むことにする。
ルドルフはそれが癪に障ったのか、その辺の椅子を蹴り飛ばしていた。
俺には関係ない。関係ない。
ギャーテーギャーテーハーラーギャーテーハラソーギャーテーボージーソワカ……。
俺は無心を心がけて連中を意識の外に追いやった。
それから渋い顔をしてやってきた年配の職員によって俺のギルド登録手続きは滞りなく行われた。
ただし職員の対応は終始素っ気ないものだった。まるで厄介者はもう来るなと言わんばかりの塩対応であった。
俺は厄介な連中に目をつけられた厄介者の同類と見做されたようだった。
「…………!」
他の冒険者と視線が合うと素早く顔を背けられる。ルドルフたちの睨みが効いているらしかった。
どいつもこいつもチンピラ風情にビクビクしすぎではないか? くすんだ金髪の一味はそんなにやばい連中なのか?
見る限りでは俺を捕えようとしてきた使い走りの輩どもとどっこいどっこいの小物臭しかしないのだが。
いや、人間社会ではこういう何をしでかすかわからない小物中の小物みたいな連中こそが一番恐ろしいものなのかもしれない。
「…………」
どうにも居づらい雰囲気が漂っていた。
居たたまれなくなった俺はそそくさとギルドの建物内から退散することにした。
ロクでもない連中に絡まれたおかげで良き出会いもクソもあったもんじゃない。
金輪際、胡散臭いと直感で感じたやつとは取り合わないようにしよう。
俺は心が荒んで嫌な方向に自分が一歩逞しくなったのを感じた。
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