成長と旅立ち 4『……やれやれ、汚ねえトマトだぜ。』
「何言ってんだこいつ?」
……どうやら違ったらしい。
やべえ、ちょっと恥ずかしいんですけど。だってご主人の弟が俺の中で見ていたアニメでそんなんがあったから……。
「こいつは魔力の流れを狂わせる粉でなぁ……。この粉を浴びたらお前らお得意の魔法はしばらく使えねーんだぜ? くくっ、試しに使って見ろよ」
頬傷の男は勝ちを確信した表情で俺に粉の正体をばらした。
「魔法が使えないだと……?」
そんな技術というか封じ技があるなんて学校では聞いたことがなかったぞ。俺が覚えてないだけかもしれないけど。
「いいねえ! その驚いた顔! どいつもこいつも『そんな馬鹿な!』って叫んで何もできず、オレたちにボコボコにされて泣きながら奴隷の首輪をつけられるんだ。恐怖のあまり小便を漏らしたやつもいるなぁ!?」
ギャハハと笑う醜男の集団。
酒で焼けたガラガラ声が一斉に声をあげると吐き気を催す不協和音に聞こえた。
エルフはみんな美声で歌が上手いからさ……。無菌状態で過ごすと耐性がなくなって逆に危険だってことが身に染みてわかった。
「お前らエルフは魔法しか能がない貧弱野郎どもばかりだもんなぁ! 魔法がなけりゃなにもできねえだろ!? この対エルフには効果てき面の秘密兵器を前にして、どう惨めったらしく足掻いてくれるんだ?」
……ん? これが秘密兵器? ひょっとしてこれ以上は何もないとおっしゃる?
魔法を使えなくするだけ?
「…………」
俺はすぅーっと胸いっぱいに息を吸い込んだ。
――ドゥルン……ドゥルン……
神経を研ぎ澄まし、集中力を高める。
一点だけを見つめ、姿勢を前傾させて足の裏で地面をしっかり掴む。
「――――ッ!?」
次の瞬間、余裕をぶっこいて立っていた頬傷の男は全身をぐしゃぐしゃになった状態で数十メートル離れた位置まで吹き飛んで肉塊となって転がっていた。
「な、なにをしたんだお前……!」
さっきまで仲間が立っていた場所に代わりに佇んでいる俺を見て輩どもは怖気づいていた声を上げた。
「お頭がミンチだ! ミンチになってやがる!」
「なんでこいつ魔法が使えるんだ!?」
輩どもの間に動揺が広がっていく。おいおい、すっかり立場が逆転しているようだぜ?
「ふっ魔法なんて使ってないさ。俺はやつを轢いただけさ」
調子に乗った俺は少し気取った喋り方をした。
シルフィに聞かれたら間違いなく気持ち悪いと言われ、妹に見つかったら洗濯物を一緒に洗うことを一生拒否されるそんな喋り方を。
俺はイメージのなかで目一杯アクセルを踏み、頬傷の男に突撃したのだった。
速度の調整とかは考えず直進で全力だったから相当のスピードが出ていただろう。男は一瞬で全身の骨を砕かれてあの世に召された。
一方で俺は傷一つ負っていない。よほどのことでは痛みを感じない鋼のボディは健在だった。よきかなよきかな。
走る凶器と呼ばれた自動車の中で、より凶悪なトラックの破壊力を舐めんなよ?
近現代の3Cに属する文明の力を思い知ったか。
「ぶつかっただけで人があそこまで飛ぶわけがねえだろ。お前さっきぶつぶつ何か呟いていただろ!」
輩の一人が恐怖でズボンをぐっしょり濡らしながら俺に指摘してきた。そいつは野郎の嘔吐シーンは嬉しくないと言った男だった。
「それはエンジン音だ」
俺はクールに答える。やべえ、超ニヒルに決まった。
「えんじん……おん……?」
意味がわかっていないようで、輩たちはさらに困惑の表情を浮かべる。
「理解できないのならしなくてもいいさ。なぜならお前たちにはもう必要のない知識だからな」
「「「「…………っ!?」」」」
輩どもを少しだけビビらせようと思った俺の言葉は想像以上に効いてしまったらしく、不細工な男どもの八割が尿を漏らして大地を潤した。激しく汚い。
妹のおしめを取り替えたときはちっとも不快ではなかったのに。
「ひとつだけ訂正しておこう。俺はただぶつかっただけじゃない。さっきのは……超怒級トラックアタックだ!」
「な……とらっく? わけわかんねえこと言ってんじゃねえ! お前ら、やっちまうぞ!」
数刻後。
街道は真っ赤な液体で染め上げられ、ブニョールのトマト祭りみたいになっていた。
無論、この赤は輩どもの血の色である。果肉っぽいのは……想像に任せる。
これ以上はちょっと言えない。規制に引っかかるからな。
……やれやれ、汚ねえトマトだぜ。
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