第4話 ダーレスブルグ公国について その2

【浮沈艦隊の主】フランシス・ドレットノート

「我こそは公国海軍が主、フランシスであるぞ!」

 ダーレスブルグ公国が誇る4つの軍隊の1つ、第1軍を束ねる将軍にして公国海軍の提督、そして王位継承権1保持者でもある身長2m近い三十半ばの男性です。質実剛健、武勇と尊ぶ公国の次期主に相応しくあまたの武具の扱いに精通しています。本当に多数の武具を自在に使いこなすため、武芸の稽古も1種類の武器を深く使いこなす、ではなく多数の武器を浅く使いこなすような鍛錬になってしまい、技量としては『どれも達人級に使いこなすが、一番にはなれない』というレベルです。そのため、剣1本、拳1つ、弓1張、槍1槍・・・どれか1つに絞っていれば今頃無双の名手になっていただろうと評価されています。それゆえに他称「武芸の神に愛され過ぎた男」とされ、「器用貧乏」と自虐しています。

 王位継承問題でここ5年ほど政治的に不自由していましたが、正気に戻ったアルフレートⅢ世がルキスラ皇帝と対談後、「余のボンクラ共を次期公王に据えてもルキスラに飲み込まれるだけだ。フランシス、マグダレーナ。お前たちは次期王になる気はあるか?」という問いを投げかけられ、「荷が重すぎる」と断ったマグダレーナ将軍とは違い、「男児に生まれたからには当然王位を夢見ている」とフランシスが答えたことからアルフレートⅢ世より次期公王として正式に指名されました。

 現4軍中唯一色備えを許されていませんが、これは先の王位継承問題によるごたごたの影響であり、将軍の武威が他の将軍に劣っているわけではありません。むしろ海戦となれば北テラスティア最強の将軍です。

※【海賊妃】ドルネシアと比べても実戦経験で大きく上回るのでフランシスのほうが海戦上手です。

 

【赤の猛将】ゴーイ・リューンゲージ

「がははは。公国随一の脳筋将軍とはこの儂のことよ!」

 事の起こりからダーレスブルグ公国の色備えの中でも“赤”は特別な意味を持ちます。“赤”は最強の兵団のみ許される特別な色であり、生半可な武勇では名乗れず、長く空位のままでした。その赤備えを実に数十年ぶりに許されたのかゴーイです。ダーレスブルク王国創世記から伝わる一撃必殺の流派『リューンゲージ流剣術』の使い手で、戦場においては常に最前線の最も危険な場所に配置されてなお、立ちふさがる全てを粉砕する戦ぶりはザルツ地方外にも轟くほどです。

 豪快な性格で小事にはこだわらず、自称「脳筋将軍」ですが、領内経営を見る限り決して政治能力がないとは言えず、相手の策略を見抜く鋭さも持ち合わせています。が、公国最勇の「赤」を任されている以上、あえて敵の策略は正面からぶち破る方法を好みます(無理だと判断したら搦め手に切り替えます)。

 第1軍の将軍、フランシスはリューンゲージ流剣術の兄弟子にあたり、今でも「兄者」と呼んで慕っています。なお、ゴーイはただ単純に兄弟子だから慕っているではなく、悪ガキだった子供の頃でも筋に通ったことをすれば何かとかばってくれたフランシスに恩義を今でも感じているからです。

 

【名将の後継者】シグルド・シアルフィ

「父に及ばずとも父の名に恥じぬ戦いをしなくては・・・」

 名将バイロンの長子長男にして、その後継者として士官学校卒業以来10年以上第3軍の将校(最終的にはバイロンの副官まで昇格)を務めていた歴戦の軍人です。とある敗戦を契機に将軍職を解任されたバイロンの後釜として、第3軍の将軍へ昇格しました。大陸歴312年の時点で29歳の男性です。

 戦士としても将軍としても父以上の大器であると周囲は評価していますが、同時に父以上に慈悲深く、弱者を見捨てられない、人としては優しい、軍人としては甘い面を持ち、それゆえに大局を見誤ることも多く、とある名伯楽からは「優秀な参謀さえつけば父を超える器。今のままでは部隊長の器。」と評価されています。

 

【黒衣の姫将軍】マグダレーナ・イエイツ

「私は弱いが私の軍は強いぞ。」

 ダーレスブルグ公国第4軍を束ねる将軍にして、公国の英雄オトフリートの一人娘、そして現4保持者です(1位はフランシス、2~3位はフランシスの子供)。

 戦をすれば常勝無敗の名将。それだけでなく政治家とても超一流の結果を残し続け、公国からは色備えの「黒」を許可され、「完全無欠の名将」として世に知られています。が、優れた戦士でもあったオトフリートの子でありながら戦士としての体格には恵まれず、ちょっと鍛えた一般女性程度の体躯です。そのため、重たい鎧や盾で身を守りつつ武器を振るういわゆる「正々堂々とした騎士」としての戦うと素人よりマシ、程度の実力で世間一般で言われている「完全無欠」と自身のギャップに苦しんでいました。

 これまた色々あって(※)いまでは戦士(ファイター)としての戦闘は諦め軽戦士(Aフェンサー)としての戦いに活路を見出しています。軽戦士としての技量は他の3将軍と比べても見劣りするものではなくついに「完全無欠」の名に恥じぬ名将に成長しています。

※このエピソードも後日公開予定


【ザルツ一の騎士】トゥルーチェ・シアルフィ

「その名前負けする二つ名はホント、勘弁してほしいんだけど・・・」

 名将バイロンの次子長女で、非凡な才を持つ兄と比べても「お前が男だったら・・・」と父親に嘆かせる(バイロンは所謂『古い』人間であり女性は家にいて夫の帰りを待ち家を守るもの、という思想の持主)ほどの軍才を持つ女傑です。

 綺羅星に例えられるほど数々の武勇譚の持ち、公的には公国第4軍の中隊長の地位にいますが、いとこ違いの姫将軍から「トゥルーチェは尋常な兵法の内側に収めていいような器ではない」と評され、もっぱらコマンド部隊としての任に着いています。

 彼女の二つ名「ザルツ一の騎士」もそのコマンド部隊として活躍した際に由来するものです。ブルーム北部の戦いでザルツ連合軍が大敗し、殿を務めた父バイロン率いる公国軍が蛮族の大軍中に取り残された際、幾重にも囲む蛮族軍の穴をついて知り合いの民間人と共に少数精鋭部隊で公国軍に救援物資を届けることに成功します。そののち息を吹き返した公国軍と共に蛮族軍を蹴散らしたことをルキスラ皇帝が「彼女はザルツで最も勇敢で武略に秀でた女性だ」と褒めたたえたのがどこかで曲解され「ザルツ一の騎士」と世間では評されるようになりました。

 なお、この【ザルツ一の騎士】に関しては本人だけでなくルキスラ皇帝からも「そこまで言った覚えはない」、ダーレスブルグ公国としても「武才はあっても将才は兄以下なのに兄を超える名声はかえって不都合」と三者が苦笑している状態です。

 

【黒の参謀】バルバロッサ・ケンカーズ

「もはやこのおいぼれが教えられることなどありませんな・・・」

 イエイツ家にマグダレーナを含めると4代にわたり仕える古参の兵でマグダレーナとトゥルーチェの守役でもあります(女性の二人が軍人になったのはこいつのせい)。若いころは文字の読み書きもできないほど無学な男でしたが、二人目の主(マグダレーナの祖父)に勉学を勧められ、軍師・参謀としての才能に開花。三人目の主、オトフリートの代には「我が軍の目のごとし」と主から評されるほどの大参謀に成長しました。

 若い頃からの大酒のみで、それゆえに失敗したエピソードはたくさんありますが、20余年前に深酒がたたってエイギア遠征中に体調を崩し本国へ強制帰国、そののち主であるオトフリートが戦死したという報を聞いてからはお酒を断っています。

 オトフリート軍がエイギア地方各地で連戦連勝を続けていた際にも「勝ち戦に気を緩めすぎている」「兵站が怪しくなっている。一度引き上げるべきだ」という進言をオトフリートにしていたことから「バルバロッサさえいればオトフリート軍は破れなかった」という世間の評は彼にとって屈辱以外の何物でもありません。なぜなら主あっての自分であって、自分の存在で主の価値が決まるものではないからです。

 長くマグダレーナとトゥルーチェの成長を見守り続けていましたが、二人はもはや自分が教えられるレベルを超えたところまで成長したことを確信し、老人が若人の道を邪魔してはならないと本格的に引退を考えつつあります。

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