29話 : これ、なんだよ。
僕が誰かの記憶を見ている間に、里に情報を集めに行こうとなったらしい。……のだが。行く前に、いくつかの注意点をレオンに言われた。
レオン「一つ、お姉さんの名前は絶対に出さないこと。一つ、自分達が選ばれた勇者だと言わないこと。知られないこと。一つ、魔王を助けるなんて口が裂けても言わないこと。……いい? そして最後にお兄ちゃん。お兄ちゃんはなるべくフードを被ってて。そして極力話さないで」
レオンは「お兄ちゃん」と言いながら僕を見る。その眼差しはふざけているわけでもなく、真面目な意志を持ったそれだった。
アッサム「……ど、どうして?」
レオン「この里の人達は鋭いんだ。だからお兄ちゃんがあの人と同じだって気づかれると思う。そうしたら面倒くさいことになるからね」
そう言いながら、レオンはタンスの中を漁る。そして「あった」と言うと引き出しに突っ込んでいた手を取り出した。その他にはローブが握られていた。
シュガー「その、お前の言う“あの人”とは一体誰を指すんだ?」
レオンから差し出されたローブを受け取りながら、僕らの疑問をシュガーが聞いてくれた。
レオン「お兄ちゃん達は、もうあの人の名前を知ってるはずだよ? あの幽霊くんはお喋りだからね」
コジー「幽霊、くん?」
コジーは一番に受け取ったローブのフードを既にかぶっていた。僕も、レオンからローブを受け取るとフードを深くかぶる。
シュガー「幽霊くんとはシンリンのことか…? あのとき、確か…」
レオン「さぁ。里に情報集めに行っておいでよ! 早くしないと皆んな寝静まっちゃう」
レオンの顔はどこか嬉しそうだった。
注意点の理由は里に行けば分かると言われ、大人しく里へと向かった。
アメジストの後に見たからだろうか、とても栄えているように見えた。特別裕福な人や、貧困で困っている人はおらず、皆、平凡に暮らしていた。
里の人は僕らを見ても愛想良く声をかけてくれるし、旅人だと分かると、あれもこれもと物を分けてくれた。
コジー「……俺らは何のためにこんな格好してんだよ」
シュガー「仕方がないだろう。あの少年が着ていた方がいいと言うのだから」
そんな会話を耳に、僕たちは歩いていた。そして広場へと出た。
そこには石の塔と呼んでいいのか。柱のようなものが建っていた。それは周りの家とは雰囲気が少し違う。どこかの遺跡から掘り出されたような、でもこの時代よりもっと後から来たような、そんな感じ。
里のどこにいても見えそうなその柱の上に、月が乗る。
不思議な表現だが、これが一番しっくりくるのだ。角度が良かったのか、本当に乗っているように見えた。
すると、周りにいた町の人達は膝をつき始めた。そして、それに向かって祈りだす。
コジー「な、何だ!?」
??「月の女神様に、祈りを捧げているらしいのですよ」
背後から聞こえたのは、とてもおっとりとした声だった。振り返ると、そこには胸の大きな知らない女の人が微笑んでいた。
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