28話 : 助かるか、助かるか。


かぐや姫はそこまで話し終えると目を閉じた。




コジー「…それで? なに取られたんだよ」




コジーの睨むような目つきは、普段からは想像が出来ないくらい鋭いものだった。


かぐや姫はそれを一瞥すると、潤んだ目を伏せた。




かぐや姫「…心を……愛する心を、取られてしまいました…」




かぐや姫の頬を一筋の涙が伝う。それを隠すように、僕らの前にレオンは立った。




レオン「ちょっと、僕の部屋に移動しない?」




僕らは、そう悲しそうに微笑む少年の後に続いた。



案内された部屋は、人形のような見た目からは想像が出来ないくらい“和”で統一されていた。それはレオンだけが異世界から飛ばされてきたかのようで、なんだか不思議な感覚だった。




アッサム「……それで、愛する心のことなんだけど…」



レオン「うん。お姉さんはそう呼んでるけど、実際は少し違うんだ。なんて言ったらいいかな……良心、とかかな? プラスの心を取られたんだ。だから、お姉さんに残っているのはマイナスの心。悲しみ、苦しみ、寂しさ……そんな気持ちだけが溢れてくる状態なんだよ…」




小さな拳が強く握られている。


きっと、レオンも村長達と同じように、かぐや姫と長く一緒にいるのだろう。そして、幾度となく彼女の心からの笑顔を見たに違いない。だからこそ、誰よりも彼女を想い、彼女と同じくらい苦しんでいるんだろう。


だからだろうか、声をかけたくなった。そんな衝動に駆られてしまった。




アッサム「…僕ね。家族を助けるために旅に出たんだ。でもね。今は、家族も、想像上の存在たちも、除外された人たちも。みんなを助けたいって思ってる。だから……我慢、しないでね」




僕の言葉に彼は小さく反応した。




コジー「助ける、ねぇ……」




声のした方に皆の視線が集まる。




コジー「……なんだよ、そんな顔すんなって! 大体、魔王助けるってなんだよ。俺は「魔王を倒して英雄に!」って感じでゲームしに来たわけよ?」



シュガー「じゃあ、お前はアッサムの母親が死んでも良いというのか??」



コジー「そもそも、生きてる前提ってのがおかしいだろ。そんなマインドコントロールされてるような奴、死んでてもおかしくねぇだろ? それに、一番最初、家族事に興味なかったのはお前だろ?」




コジーの問いかけに誰も何も言い返せなかった。確かに、生きているとは言われていない。でも、親父は「助けたいものを見失うな」って言った。だから、きっと助けられるんだと思ってる。


それに、なんでか分からないけど、大丈夫だって気がする。何か、自分の奥底から言われてる気がする。



だから、僕は「大丈夫」って顔でコジーを見た。言葉じゃ何を言って良いか分からないし、“気がする”じゃ、説得力もない。


それに「目は口ほどに」って言うし。伝わるかなって。…だから、少しは、伝わってほしい。


僕と数秒間、目を合わせていたコジーはゆっくりと口を開いた。




コジー「結局、ここはゲーム内なんだよ。適当に流しててもゴールは出来る。どんな形になろうと世界は救えるんだ。“助ける”なんてお前が言わなくても必然的に付いてくんだよ」



アッサム「…僕には、コジーの言葉の半分しか分からないけど。でも、結果が必然なら、そこに気持ちがあっても良いんじゃない? 必然な結果だからこそ、気持ちがある方が良いんじゃない?」




しばらく僕らの話を聞いていたレオンが話し出した。




レオン「……僕ね、今まで色んなお姉さんを見て来たんだ。楽しく笑う顔も、悲しそうに泣く顔も、辛そうな顔も、幸せそうな顔も。でね、その中でも一番怖かったのは魔物になったとき。助けるって言ってくれた冒険者の人達が負けちゃったんだって……。きっと、お兄さんはこのことを心配してるんだよね? 無責任に言うなって」




レオンのビー玉のような瞳にはコジーが映っていた。




コジー「…チビのくせに、アッサムよか物わかりいいのな」



レオン「お姉さんがね。…よく、言ってたんだ。“私は無責任なことを言いたくないの。言葉は相手を知るために生まれたものだから。それを酷く使うのは違うと思わない?”って。だからお兄さんも、言葉を大切にする人なんだね」



コジー「……あーー、なぁ。そのお兄さんって辞めてくれねぇか? おじさんでいいから。調子狂うわ」




コジーはそういうと頭をかいた。ピンと張っていた空気が少し緩む。




コジー「俺はゲームを楽しみに来ただけで、誰かを救うとか、世界を救うとか、正直どうでもいいわけよ。俺は楽しみたいだけだから。そのついでに助かる人がいるかもしれないし、いないかもしれない。それだけだ。30のおっさんに期待すんなよ」




コジーは猫を追い払うような「しっしっ」という手振りをすると、そっぽを向いた。



そんな中、突然、僕の頭の中にどこかの映像が流れ出す。




??『おい、あれって……』



??『間違いない! 行方不明だった村の娘だ!』



??『ダニー、お前の情報は正しかったよ。ありがとう。ここからは俺らの仕事だ。任せな!』



ダニエル『気をつけてな! ……!』




知らない土地で、親父が僕の方を見て会話をしていた。でも、声は僕じゃなくて…。それに親父が名前を呼んだみたいだったけど、最後は聞き取れなかった。…なんて言ったんだろう……。


1人で思い悩んでいた僕の耳が拾ったのは、話しがまとまった頃だった。




シュガー「では、まずは里に行くとしようか」

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