23.5話 : サブクエスト発生。


コジー「なぁ、青鬼いたか?」



シュガー「いや……それに、アッサムも見当たらない」




私達は村の中を散々探し回っていた。装備屋にも寄ってみたが、リリナの姿はなかった。


だいぶ日も暮れてきて、一旦シンリンの所に戻ろうと話していた時、タイミング良くシンリンは現れた。




シンリン「やぁ、まだここに居たのかい? それより、青鬼くんはどうなったんだよい?? ……そしてアッサムはどこだよい?」



シュガー「青鬼が見当たらなくて探していたら、アッサムまで居なくなってしまった。そして店の方もリリナが居なくなっていたが、どうなっているんだ!?」




私は感情に任せて怒鳴った。八つ当たりなのは分かっている。だが、どうしようもない苛立ちを抑えることが出来なかった。




コジー「おいおい、落ち着けって。どうしたよ、らしくねぇな。まぁ、眠くなりゃあアッサムも戻ってくるだろ。なぁ、モリリン、また寝床貸してくれよ。……ってか、あそこ馬小屋だったじゃねぇか! 客を馬小屋にもてなすたぁ良い度胸じゃねーか!!」



シンリン「ご、ごめん、だよい。でも、自分の今の家はあそこだったんだよい…」




私はシンリンの顔を見た。丁度月明かりが出始め、シンリンの顔を照らしていた。


そのすこし困ったような顔に、私の中にあった怒りが鎮まっていく。私はいつも人にこんな顔しかさせることが出来ない。


私は拳を握りしめた。




シュガー「……まぁいい。それより、どこか心当たりはないか? 土地勘のあるやつの考えが欲しい」



シンリン「あ、あぁ。それなら、その上の小屋に行くと良いよい。ほら、青鬼くんの昔話にも出てきたよい?」




シンリンが指差した方を見ると、木の隙間に小屋が見える。




コジー「あ、ほんとだ。気づかなかったぜ、くっそー」



シンリン「まだ、形が残っているのが不思議な感じだよい」




シンリンの言葉に弾かれたようにそちらを見た。ボソッと呟いたシンリンは小屋を眺めたままだ。


何か、意味がある。そう思った私はフレンドリストから友情カードを開いた。フレンドリストは、本来、フレンドになった者のステータスを見たり、連絡を取り合ったり出来る。


ここでは、どうやら一定以上の会話をするとNPCに限り「友情カード」というものが手に入るらしい。


友情カードにはNPCの名前、年齢、誕生日、今まで知り得たNPC本人の情報、このNPCにより発生するクエスト…いわゆるサブクエストについて載っていた。



『名前 : シンリン

年齢 : 26歳

性別 : オス

誕生日 : 12月31日

一人称 : 自分

特徴 : 語尾に「い」が付く。


木こり。今の住まいは馬小屋。


・シンリンに遭遇すると、リリナの場所まで案内してくれる。

・シンリンの家を直してあげると新しいルート発生。』




シンリンの家、ということは馬小屋とは別にあるということ。だが、あの馬小屋の近くに家は見当たらなかった。……これは聞く必要がありそうだ。




シュガー「なぁ。さっき、「今の家は」と言ったな。昔はどこに住んだいたんだ?」



シンリン「昔……生き返る前っていうのが正解なのかもしれないよい。その頃は綺麗な泉から少し歩いた所に住んでいたよい」




月明かりがシンリンの目を輝かせる。誰かを思い出しているようだ。




シュガー「…その後は?」



シンリン「その後かい? …自分はそっちで死んだよい。……あ、でも、その家に落ち着くまでは旅をしていたから、あちこちに小屋を建てたよい。あれも、その1つだよい」




シンリンは私に向けていた視線をまた崖の上へと向ける。




コジー「へー。あれ、お前の家だったのか」



シンリン「そうだよい。生前、旅をしていた時に建てたんだよい。次の街へ旅に出るとき、野宿をしていた2人の鬼にあげたんだよい」




シンリンの嬉しそうな顔は、アッサムの顔と重なった。それが自分の役目だというような、そんな顔。私もいつか、あんな顔がしてみたい。


ただ、私もやってみようと思った。何かやってみれば、いつかあんな顔が出来るかもしれない。そんな、淡い期待を込めて。




シュガー「じゃ、あの家を直さなきゃな」



コジー「直せるのか? あれを? ……あ、なるほど、サブクエか」




何が必要か確認すると、木材とティルだけらしい。運が良いことに、レベル上げで森を歩き回っていたときに木材はいくつか手に入れていた。


私はクエスト欄からクエストを選択した。指定されていた数の木材とティルが消える。それに少し遅れて小屋の外観が綺麗になった。きっと中も綺麗になっているはずだ。


建て直しは一瞬で終わった。今後のクエストも、こんな一瞬で終わるものばかりならいいのだが……。まぁ、そうはいかないだろうな。




コジー「おぉ!! ほんとに綺麗になったじゃねーか!!!」



シュガー「……じゃ、行こうか」




私達はアッサムがいるかもしれない小屋へと向かった。


向かう先の小屋は、綺麗になったことを見せびらかすように月明かりに照らされている。

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