23話 : 助けてくれたお礼だよ。


アッサム「青鬼、くん……?」




僕はリリナに教えてもらった小屋に足を踏み入れた。中からすすり泣く声が聞こえる。




青鬼「…ひっく……うぅ…。…ぐすっ」



アッサム「……青鬼くん、はい、これ。君の大切なもの…」




僕は青鬼くんに箱を差し出した。彼はそれを泣き腫らした目で見つめ、不思議そうな顔をした。




青鬼「…なに、それ……。僕はっ…そんなの、知らないよ…?」



アッサム「えっ……」




「冷静の色」と表示されるこの箱は、青鬼くんのものじゃない…? それとも、取られたことに気がついてなかった、とか?


あれこれ難しい顔をして考えていた僕に、青鬼くんは手を伸ばした。




青鬼「……でも。なんだか、それ、懐かしい感じがする…」




青鬼くんの指先が触れた瞬間、光を放ちながら口を開いた。そして中から光る玉のようなものが飛び出すと、青鬼くんの中へと吸い込まれていった。


今まで赤かった青鬼くんの体が、見る見るうちに青になっていく。本来あるべき姿に戻っていく。




青鬼「…あっ……。思い、出した……」




青鬼の頭の中には、いつか、赤鬼とした会話が流れていた。




赤鬼『僕、人間と友達になりたい。人間の友達が欲しい!』



青鬼『どうして、またそんなことを言うんだい? あいつらは僕らの仲間を殺したんだぞ!?』



赤鬼『うん…それは分かってるよ。……でも、それはしょうがないんじゃないかな。僕らは人間を怖がった。人間も僕らを怖がった。…人間は僕らと同じことをしているだけなんだよ。物を作るのも、言葉を使うのも、集落を作るのも。全てね』



青鬼『でも、今度のは違う! 僕らは何もしていない、なのに人間は仲間を殺した!』



赤鬼『うん、そうだね。でも、それは人間が成長した証なんじゃないかな? 僕らの真似じゃなく、自分達の考えが生まれたんだ』



青鬼『だけど…』



赤鬼『…僕はね、こうなる前に近づいておくべきだったと思うんだ。きっと、僕らが近づけば、彼らも近づいてくれた。彼らに自分達の考えが生まれる前に、行動を起こすべきだったんだ。今更こんなことをしても遅いのかもしれないけど、父さん達が戦うことを抗ったように、僕も抗ってみたいんだ。……手伝って、くれる?』




青鬼くんの身体が青になってから、しばらくの間、青鬼くんは泣いていた。今までのような苦しそうな涙とは違い、子供のように泣きじゃくっていた。


青鬼くんが泣き止んだのは、太陽が地平線に半分隠れた頃。




アッサム「……少しは落ち着いた?」




僕は腰にかけていた水入りボトルを差し出した。青鬼くんは泣き腫らした目をこちらに向ける。




青鬼「…ん。……りが、とう」




青鬼くんは目を去らせながらも、それを取ってくれた。自然と頬が緩んでしまう。僕は1人分空けて、青鬼くんの隣に座った。


一口、ボトルの水を飲むと、青鬼くんは質問をしてきた。




青鬼「……いつ、ここを出るの?」



アッサム「本当は今日出るつもりだったんだけど、暗くなってきちゃったからね。シンリンさんにもう一晩泊めてもらって、明日にでも出るつもりだよ」




隣からボトルを握りしめる音が聞こえた。





青鬼「……怖くは、ない?」



アッサム「……少しね。でも、皆を助けるためだから。僕が頑張らないと。……それに、僕がやりたいって思ったことだから」




窓から入っていた月明かりが消えた。それから一拍置いて青鬼くんが立ち上がった。目を向けると、青鬼くんは下を向いていたが暗くて表情までは見えなかった。




青鬼「…」




青鬼くんがドアの方へ歩き出した。それを待っていたかのように、月明かりが戻ってくる。


よく見ればいつの間にか部屋の中も、壊れていたドアも新品のようになっていた。


閉め切られていたドアに手をかけ、青鬼くんは言った。




青鬼「ここを使って。助けてくれたお礼だよ」




そういうと、青鬼くんはどこかへ行ってしまった。

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