20話 : 作戦と、あわよくば。
リリナ「……アッサム?」
リリナは僕を見ると駆け寄ってきた。心配しているのが言葉から伝わってくる。
リリナ「…大丈夫? 顔色が悪いよ。一体、何があったの??」
リリナにそう聞かれたけど、僕にも分からないものに答えることはできなかった。顔をうつむかせ、何も言わない僕を見て、コジーが口を開いた。
コジー「でっけー魔物に会ったのに、逃げて帰ってくることしか出来なかったから拗ねてんのよ、そいつ」
僕は視線をコジーに向けた。その目は真剣で、彼の思いはそれだけで伝わった。コジーの優しさに心でそっと感謝する。
それでもリリナは納得いってない様子で、僕の方へと駆け寄って来た。リリナは自分の首に付けていた紐を外した。その先には綺麗なオレンジ色の石がぶら下がっていた。
リリナ「これ、アッサムに貸してあげる。リリナのお守り。アッサムが、もう大丈夫になった時、長老様に届けて欲しいの。それまでは貸してあげるよ」
今まで服に隠れていたそれは、リリナの体温が残っていてとても温かかった。僕は渡されるままに受け取ると、それを首から下げた。その姿を見て、満足したようにリリナは笑った。
リリナの笑顔を見て、今まで悩んでいたことがとても小さく感じた。思い出さなくてはいけないという使命感は、身体の奥へ再び眠りについたようだった。
シュガー「落ち着いて考えるぞ。あの魔物の倒し方を」
アッサム「そのことなんだけど……」
僕の頭の中には、僕の知らない記憶が呼び起されていた。でも、不思議と嫌な感じはしない。
僕はシュガーたちに向き直った。もう大丈夫だと、視線で伝える。
アッサム「一つ、考えがあるんだ」
僕の話を聞いた2人の冒険者は、なるほどなと言って賛同してくれた。
僕が提案したのはレベル上げ。初歩的で、確実な力。明らかに僕らに足りていないそれを補うため、僕らは森の中へ足を運んだ。
シュガー「あまり奥へと進みすぎたら、またあいつと再会するからな。ここら辺をうろうろするか」
コジー「そうだなぁ。あわよくばドロップアイテム…だったよな、アッサム?」
コジーは肩越しに僕を見た。僕の視界に2人の視線が入ってくる。いつでも戦闘が出来るように張り詰められたこの緊張感は未だになれない。
僕はゴクリと唾を飲むと、大きく首を縦に振った。
アッサム「リリナが、冒険者が取ってきた材料じゃないと属性が付かないって言ってたから、僕らがレベル上げで手に入れたアイテムで何か作ってもらえたら一石二鳥かなって」
シュガー「知識が浅いにしては中々良い案だな。何も出てこなかったコジーより使えるよ」
コジー「いやいや!? お前だって何も出してねぇだろ! なに、いかにも俺だけ「残念なやつ」みたいになってんだよ!?」
コジーの怒りへシュガーが言い返す前に草むらから小さな魔物が飛び出してきた。
魔物「くぉぉぉぉぉ!!! くぉぉぉおお?!??!?」
魔物は攻撃の隙も与えてもらえないまま、シュガーの一撃によって倒された。魔物が消えたのを確認すると、少し肩の力を抜く。瞬時に構えた弓矢をそのままに、上げていた腕を下ろす。
僕が一息つく間に、コジーは魔物の落としたドロップアイテムへと近づいて行った。
コジー「ヒューー。かっこいーなぁ…っと。なんだ、ドロップアイテムなしかよ」
魔物が消えた所には、いつも通りお金の山が残っていた。コジーはそれを漁るが特別なアイテムは落ちていなかったらしい。
その光景をシュガーが呆れた様子で見ている。
シュガー「まだ1戦目なんだからしょうがないだろう、全く。前から分かっていたことだが、馬鹿だな」
少し後ろにいた僕の位置で辛うじて聞こえたくらい小さな声は、少し離れた彼に届いたようでギロリとこちらを睨んでくる。
コジー「おい! 何か言ったか!」
シュガー「別に、何も」
コジー「言っとくが俺はそこまで馬鹿じゃねぇ!!」
シュガー「なんだ、聞こえていたのか」
コジー「やっぱり馬鹿にしてたのかよ!! 年上は敬うもんだぜ、兄ちゃんよ!?」
2人はいつもの言い争いをする。そんな光景が微笑ましく、ついつい笑ってしまった。それを彼らは見逃さず、いきなり2人の顔がこちらを向く。
アッサム「!?」
コジー/シュガー「笑ったな!?」
2人は声が揃ったことに、また顔を見合わせる。本当に、仲がいいのか悪いのかわからない。
そんなことをしていると、2人の後ろから影が覗いた。それに2人は気がついていないらしい。僕はすぐさま弓矢を持ち上げ、ウゴウゴしている魔物めがけて矢を放つ。
シュパッ!
魔物「ぎゃゃややややや!?!?!!」
魔物は1撃では消えなかったが、ピクピクとするだけで反撃するほどの力は残っていないらしい。
魔物の叫び声に2人の冒険者も反応し、動き出した。先ほどと同じく、シュガーの剣により魔物は姿を消した。
ーーーポロロロン♪
以前もどこかで聞いた音が聞こえた。だが、それもコジーの言葉に耳から消えてしまう。
コジー「ふぅ、あぶねー。お前のおかげで助かったぜ! ありがとよ、アッサム!」
シュガー「そうだな。アッサム、これはお前のおかげだろう」
そう言うとシュガーは握っていた拳を開いた。その手のひらには1本の針が乗っている。針の上に文字が現れた。
アッサム「キャタピラーの、針?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます