19話 : 誰かの記憶。


コジー「しっかし、戦闘が少ないよなー。これ、戦闘ゲームって売られてたよな?」




コジーは、つまらなそうにボヤいた。


戦闘ゲームとは何だろう? ゲームなら、何となく遊ぶことなんだと分かる。けど、戦闘で遊ぶとは……想像がつかない。




シュガー「おい、やめろ。あからさまなフラグ立ては求めていない。それに、“新感覚”として売られていたんだ。多いとは限らないだろう?」



コジー「でもよー」




その時、草むらから黒い影が飛び出してきた。魔物だ。すぐさま戦闘態勢に入る。


一概に魔物と言っても、どうやら少しずつ違うらしい。先日の戦闘での魔物は、人の形の様な魔物や、人の姿に変身するものだった。だが、今回の魔物は人の形というよりも、ゴリラやサルに近い姿をしている。




シュガー「ほら、言ったことか。お前が余計なフラグなど立てるからこうなるんだ!」




シュガーは、コジーに怒鳴りながら魔物へと向かって行く。相手の懐めがけて、剣を右から左へ思い切り振った。


…が、それは鈍い音をたて弾かれてしまう。




シュガー「なっ!?」



アッサム「シュガー、離れて!!!」




僕の言葉にシュガーは後ろへ大きく跳んだ。シュガーが再び体制を整え終えるまでの数秒間で、魔物はゆっくり拳を持ち上げたかと思うと、先程までシュガーがいた場所に大きな穴を開けた。


一瞬の出来事に、僕は唾を飲み込んだ。改めて見るその巨体は、ただデカいだけではなかった。




コジー「んなっ!? こっちはまだ3Levなんですけど!?」



シュガー「10Lev……だと!?」




2人はどこか上の方を見ている。僕も魔物の頭付近に目を向けた。頭の上には10Levと書かれていた。


2人に目を移すと、同じく頭の上に数字があった。普段見えないそれは、どうやら戦闘時にだけ現れるらしい。


ちなみに、コジーの上には3Lev、シュガーの上には2Levと書かれてあった。自分のはさすがに見えなかったが、僕も2か3Levなのだろう。


このままでは全滅してしまう。とりあえず、安全な場所に避難しよう。この魔物は足は遅いから。



アッサム「コジー、シュガー! 一旦逃げよう!! リリナちゃんのお店の方に走って!!」



僕は返事を待たずにポケットから、リリナから買った草笛を取り出した。後ろから2つの走る音が聴こえたのを確かめ、手に持ったそれを思いっきり吹いた。


耳では聞き取れないその音は、草を結んでくれた。範囲は分からないが、視界の中だけでも4,5個は作られている。


少しずつこちらへ向かっている魔物に背を向け、僕も2人の後を追う。あの魔物は体が大きい分、足元が見えていない。だから、草結びなどは高確率でかかる……!




魔物「ぐぉぉぉおおおおお!?」




案の定、魔物は声を上げて倒れ込んだ。大木が倒れたような音が森に響き、それに驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ。


僕は魔物の姿など確認せず、走ることだけに集中した。




アッサム「はぁはぁ……はぁ、はぁ」



コジー「お疲れ」



シュガー「アッサムのお陰で助かった。……だが、なぜお前は知っていたんだ? あいつの足が遅いって。あいつが攻撃してくるタイミングだってそうだ。アッサム、お前は何者だ?」




ようやく息を整えた僕は、2人の視線を受けていた。シュガーに視線を返し、僕は考えた。僕自身も分かっていなかったから。




アッサム「ごめん……僕にも、分からない。ただ、あの魔物は動作は遅くても攻撃は早いって。足も遅いって。体が大きいから足元があんまり見えていないって。その情報が、頭にあって……何でだろう…」




必死に考えてみるが、あんな化け物にあった記憶などあるわけがなかった。


結局、その答えにたどり着くより先に、リリナの店の場所まで戻っていた。




リリナ「……アッサム?」
















彼の様子がおかしいことに、一人の少女が気がついた。

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