18話 : あの人の匂い。


シュガーは剣と短剣を1本ずつ、コジーは鎧を、僕は鎧とアイテムを2つ買い、シンリンの案内してくれた小屋へとたどり着いた。


もう、辺りは真っ暗で、空でたくさんの星が眩しく輝いている。




コジー「ふ〜っ。何か、長い1日だったなぁ〜」



アッサム「あはは、本当だね。……今日だけでたくさんの事を知ったよ」



シュガー「私たちにだって知らないことはある。一緒に分かっていけばいいさ。それより、明日は早い。もう寝ろ」




僕らは大人しく眠りについた。

よっぽど疲れていたんだろう。朝が一瞬で来た気がする。


僕は顔に当たる陽の光で目を覚ました。




アッサム「ん〜。よく寝た」




僕らは伸びをして小屋の中を見渡した。昨日は暗くてよく見えなかったが馬小屋で寝ていたようだ。




コジー「ふぁ〜…あ? ここ馬小屋なのかよ!」



シュガー「……朝から煩いな、お前は」




どこへ行っていたのか、シュガーが入り口から入ってきた。




コジー「お前こそ、どこ行ってたんだよ!」



シュガー「私は近くの泉で身体を洗い流してきたんだ。文句あるか」



コジー「何だよ、それなら俺も誘ってくれればいいのに! 釣れないなぁ、男だろ?」




コジーはまだシュガーの事を男だと勘違いしているらしい。シュガーの眉がピクピクと動く。それに気がついた僕は慌てて話をそらした。




アッサム「そ、それより! 今日はどうしようか?」



シュガー「そうだな。……もう一度、鬼のところへ行ってみるか。何を取られたのか分からなかったからな」




魔物が現れた今、想像上の存在は大切な何かを奪われている状態らしい。だが、先ほどシュガーが言った通り、あの青鬼が何を取られたのかは分からなかった。


僕らはもう一度、廃村へと足を運んだ。


村の隅にある大きな木の下に、蹲って泣いている青鬼の姿を見つけた。




アッサム「青鬼くん、話を聞きたいんだけど……」




「今いいかな?」と聞こうとしたが、様子がおかしい。


青鬼は座り込んで下を向いたまま、顔を上げない。




青鬼「うぅ……ぐす……ひっく……っう…」



アッサム「青鬼くん、大丈夫??」



青鬼「うぅ……ぐす……ひっく……っう…」




何度話しかけても同じ鳴き声しか返ってこなかった。


どうしたらいいのか分からず、僕はシュガーたちに視線で助けを求めた。




シュガー「……これは、こいつの大切ななにかを奪い返さないと進まないんじゃないか?」



コジー「俺も、そんな気がする」




珍しく2人の意見が一致した。2人はお互いの顔見ると廃村の奥の道へと進んでいく。


また、僕だけの知らない話。

僕は複雑な気持ちで2人の後ろを追いかけた。


しばらく歩くと、少しひらけた場所に出た。奥へと進めそうな道は、木の枝が邪魔をして先には行けない。




シュガー「今はここまでか」



コジー「じゃ、ここら辺ぶらぶらしてたら、そのうち敵が湧くか」




敵が湧く、とは敵が現れるという意味でいいのだろうか。昨日から僕が2人の会話を理解できないのは、僕が子供だからか、村人だからか、それすらも分からない。


ただ、1つ言えることは、僕ももう既に普通の村人ではないということ。


ザワザワと風に揺られ音を立てている森の木々は、その中で会話をしていた。




木「ごめんね、今はここまでなんだ」



木「ねぇねぇ。この子、あの人の匂いがするよ」



木「気のせいよ。だって、あの人はもう…」



木「気をつけて。敵が出てくるよ。気をつけて、あの人の…」



コジー「おい、アッサム? どうかしたのか?」




来た道を戻ろうとしていたコジーたちは、後ろから僕が着いて来ていないことに気がついたらしい。立ち尽くす僕を見て、声をかけてきた。


返事もせず、もう一度耳をすませてみたが、何も聞こえなかった。




コジー「……アッサム?」



アッサム「ううん、何でもないよ。今行く」




僕は小走りでコジーたちに追いついた。

後ろでは、またザワザワと森が会話を始めていた。

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