7話 : 魔物の王の正体、もう分かるよな?


コジー「……行っちまったな」



アッサム「うん………あ、僕、親父に言ってくる。やっぱり冒険行きたいって。赤ずきんたちを助けたいって。選ばれた勇者として、さ」



コジー「お、チビのくせに一丁前にかっこいいこと言うじゃんか」



アッサム「そ、そうかな? ……じゃ、行ってくる」




僕は親父が入っていったカウンターの奥へと向かった。




ダニエル「お? アッサム、その本……」




親父は何食わぬ顔をして、こちらへと向かってきていた。




アッサム「へ? あ、あれ?? 怒ってないの??」



ダニエル「怒る? 何をだ?」



アッサム「だ、だってさっき、怖い顔して奥に入っていったから……」




あれは僕の勘違いだったのだろうかと、必死に考える。親父は「あぁ、それか」とだけ言い、その後には何も続かなかった。




アッサム「……」



ダニエル「……」




僕らの間に、しばらくの沈黙が続く。その沈黙を破ったのは親父だった。




ダニエル「……アッサム。お前はどうするんだ? 俺が怒れば冒険には行かないのか?」



アッサム「そのこと……なんだけど。僕、冒険に行きたい。赤ずきんや、その他の “想像上の存在” を助けたいんだ」



ダニエル「……そうか」




親父は少し俯きながら、そう呟いた。




アッサム「お、親父が止めても、僕は行くから!」



ダニエル「は? 俺は止めねぇぞ? むしろ、“行け!” ってケツ蹴っ飛ばすわ。というか、お前は行かなきゃなんねぇだろ。それ貰ったんだからよ」




親父は僕の持っている本を指差した。




アッサム「え? 親父、これ知ってるの?」



ダニエル「あったりめぇだろ? これでも昔は名の知れた冒険家だったんだぜ? ………そうだな。色々話さなきゃなんねぇし、少し、昔の話でもするかな」




親父はそう言って、懐かしむように話してくれた。


















ダニエル「俺の故郷は、ここから1番近くて1番遠いところにあるんだ。そこの近場で俺は狩りをしていた。親父の酒場の手伝いだ。



そんなある日、動物とは違う何かを見つけたんだ。動物とは違う、だけど蠢いている何か。



俺は怖くなって逃げ出した。



次の日、町の人が神隠しにあったと噂になった。



俺は あの“何か”が攫ったんだと思った。何でかは分からねぇけど、そう思ったんだ。



それで俺は旅に出た。



他の町や村へ行き、情報を集めて回った。



そしてこのガーネットの村へとたどり着いた。



俺はここで全ての謎を解き、魔物の王へとたどり着いた。



そして、目を疑ったよ。
















だって、そこには人間の姿があったんだから。















それも、よく見ると神隠しにあったという人と特徴が同じだった。



でも、俺には何もできなかった。



そりゃそうさ、俺はただの冒険家だ。選ばれた勇者なんかじゃない。



選ばれた勇者達は、俺らを助けてくれた。この世界を助けてくれくれた。





あの “魔物の王”と、何十人かの犠牲で終わったんだ。





そして俺は、この村で嫁さん見つけて子供も授かって幸せに暮らしてた。















………そして今、再び魔物が現れた。



魔物が現れたって話が広がる数日前、俺の嫁は突然いなくなった。



これが何を指してるか、もう分かるよな?




きっと、お前が想像した通りだろうよ。




だから、それなりの覚悟をして行け。お前がこれから戦いを挑むのは、俺たちが生み出したものだ。俺たちが片付けなきゃいけねぇ。



それに、最後はお前の母ちゃんだ。辛いだろう、だが、何事にも負けるな。



そして、助けたいものを見失うな。



それさえ見失わなければ大丈夫だ。



最後にこれを託すよ。どうせ、さっきのやつには見せてもらえなかったんだろ? 俺が昔、クエストの報酬でもらったもんだ。とっといて良かったわ。 息子の役に立つんだからな。あとは村長にでも聞いてくれ」






話が終わると、親父は本を僕に渡して さらに奥へと入っていった。僕は渡された本に目を落とす。



そこにはたくさんのシミがあった。これは多分、涙の跡。



これは親父が努力し、悔やみ、悲しみ、踏ん張った分の涙が詰まった本。



僕は本を大事に抱えなおした。




アッサム「行ってくる。絶対に、母さん助けてくるから待っててよ」



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