一般相対性理論の論理的考察を無にする邂逅

『2129年1月5日

 遂に4次元5次元原子異相転換装置、つまりタイムマシンを完成させることができた。

 最大の問題は、48793回行った実験の結果からリアルタイムで移送する場合は座標の選択を誤差数ナノレベルまでのズレに修正できたが、未来に飛ばす場合は先の時間であればあるほど何処に出てくるのか分からないということと、過去に飛ばす場合は遂に移送の成功した瞬間をこの目で見ることが出来なかったということだ。

 とはいえ21世紀最後の天才と言われた私だ。理論は完璧であり心配はしていない。


 いずれにしても私の生命活動は、この150年前への転送をもって終了となる。この行為が世界を塗り替えるような結果となることを期待して、最後の言葉とする』



 僕はまるで壮大な長編映画を一息で観たかのように、一晩でこの本を読み通し心地よい疲労に襲われていた。

 曰くこの本は、ある未来の科学者が特殊なロボットを造り上げたが、周りの人間からの凄まじい批判を受け、過去に研究内容を飛ばすことでそのロボットが受け入れられる世界に作り替えるための代物だということだった。

 いくら僕が小学生であることを考慮しても、こんな荒唐無稽こうとうむけいな内容を丸々信じる人など普通はいるはずがない。

 ただ、と本の内容を照らし合わせると、決して僕にはこの話を否定することが出来なかった。


 この本は日記の形式を取ってはいたが、部分部分にロボットの設計図が挿まれ、また途中にはそもそも何故ここまでしてそのロボットにこだわるのかがびっしりと書かれていた。

 内容を一部抜粋して下に記す。



『2113年9月3日

 あの運命の日から1年。

 私の恨みはいまだ消えず、そういえば夢を他人に本として託すと決めてから、まだ私の目的を記していなかったため、今日ばかりは実験を中止しつらつらと書き連ねていこうと思う。


 (中略)現在も老若男女に語り継がれる、あの超長寿国民的アニメーションのキャラクターなのだ。ちなみに私は特に2代目と5代目の声優が好きであり、実際ロボットの音声も自由に調整可能にはしたが、初期設定は2代目の方にしておいた。(以下略)

 つまり、誰もがあの日、かの有名なネコ型ロボットの誕生を心待ちにしていたはずなのである。

 しかしどうやら政府の思惑と違ったらしく、私の最高傑作は<凡骨ポンコツ>の2文字で片づけられてしまったのだ。

 そもそも私はロボットを造るといったのであり、このキャラが次々呼び出す便利な道具のことなど微塵も興味などなかったのである。それをやれ「空は飛ばないのか?」「何でも入る小さな袋は?」「特殊な武器くらい装着していないのか?」など無粋なことばかり尋ねてきた。

 また奴らは、せめて大量生産をさせろとも言ってきたが、それこそ愚行の極みである。世界で唯一のキャラクターであるからこそ人々に愛されてきたのに、それを複製してしまっては愛玩動物と差異などない。しかして一般人というものは、このもはや芸術作品と言えるものを即座にスクラップにし、素材を別の兵器に運用しようなどと(省略)


 とにかく、以上が私の夢であり、それを実現するためにキミにやってもらいたいことは3つである。

 一つ、この設計図を使いロボットを造り上げること。

 二つ、このロボットの実用性とやらを考え生み出すこと。

 三つ、このロボットが愚かな人々にも受け入れられる土台を作ること。


 これを2112年9月3日までに実現できるよう、尽力してもらいたい』



 どうやらこういった理由から、この本は未来から今現代である1970年の世界に送られてきたらしい。当初の予定である時代と大幅にずれているのは、一気に過去を遡ったためだろうか。この中にちょくちょく出てくるアニメーションのキャラクターというのはよく分からないが、その全体図は非常に見覚えのある姿かたちをしていた。


 

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