第2話「真実とは?」

 「まずは、この世界の歴史から話そうと思いますが、ある程度あなた達に教えましたよね、覚えてますか?」

 「少しですけど…」

 オレは学校には行ってないけど、先生にも必要最低限のことだけ教えて貰っていた。

 「僕はだいたい分かりますよ」 

 ライトは頭がいいから、この町で1番学力がある学校に通っている。 

「そうですか。ではちょっとだけこの世界のことをおさらいがてら話します。数十年前に各地で戦争が起こりました。それがきっかけで世界は3の勢力に分かれました。強行派、穏健派、中立派に。結果的に強行派が生物兵器を使って、植物が暴走してしてしまい、今までの世界が崩壊しました。それからわずかに生き残った人達がなんとか生きて行ける世界を作りました。世界は100ヶ国以上あったのが、今では25ヶ国にまで減ってしまいました。これぐらいしか一般的には知られていませんが、まだ隠されている歴史があります。なぜなら知られては困る人がいるからです。」

 「なぜ知られては困るんですか?」

 オレはそう言った。 

「今はまだ分からないことが多いので言えませんが、そのうち分かると思います。真実とは何かはあなた達が自分で見極めて、考えて下さい」

 「そうですか……分かりました……」

 先生はいつも肝心なことを教えてくれない。自分で考えて動けみたいなことを言っていた。真実は自分の中にあると。

 「じゃあ、ギルダー達は?」

 「ギルダー達の闇ギルド【常闇の扉】は世界をまた混沌の渦に巻き込もうとしています。その為にあの剣を盗みに来たのでしょう。あの剣は植物が暴走した時、世界に飛び散った大きな種から初めて出現した武器なんです。詳しい原理は解明されていませんが、強力な力が込められていました。最初に現れた時に光の大爆発が起きてこの町が一瞬で吹き飛びました。ですから長い間この道場に封印していました。それをどこでギルダー達が知ったのかは分かりませんが……あの剣は手にした者によって、悪にも聖にもなる諸刃の剣なんです。」

 「それなら取り返さないとダメなんじゃ……」

 「はい、その通りです。ですが、とても危険です。剣もそうですけど、あの闇ギルドは世界最恐と言われているぐらいなので、取り返す為には命の危険が伴います。なので、命の保証が出来ません。」

 「それでも、やるしかないですよね!運命を受け入れるとか難しいことは分からないけど、取り返してきますよ!」

 「何言ってんの? 自信満々な顔してるけど、ホワイト戦えないでしょ!」

 「うるさいな、オレだって戦えるよ! 甘く見るなよ!」

 「どうだかね」

 「まぁまぁ。ですが、ライト君の言うことにも一理ありますよ。中途半端な力では取り返すどころか下っ端にも勝てませんよ! ホワイト君はしっかりと剣術の指南を受けてなかったですからね」

 「先生まで…… 確かにそうかもしれませんけど、やれるでしょう」

 「うーん、今のままでは無理だと思います。ですが、可能性はあります」

 「可能性?」

 「はい。ホワイト君は…… まだ力を出し切っていないというか、出せていないような気がします。何かが邪魔しているような……」

 先生はまた意味深なことを言った。

 「それはどういうことですか?」

 「要するに力がもっと出せるようになるということです。その為には特訓する必要があります。しかし、今の私は教えることが出来ません。残念ながら……」

 「特訓? ホワイトは出来ないと思うんですけど」

 「そのぐらい出来るって! お前を見返してやるからな!」

 「では、特訓するということでいいですね」

 「オレはやりますよ!」

 「まぁ、ぼくも付き合うかな」

 「そうですか! しかし、今の私は教えることが出来ません。残念ながら……」

 「あ、そうですよね。そのケガでは……」

 先生は数年前に門下生を庇って両手を大怪我した。フィリアがなんとか治療をしたけど、まだ後遺症が残ってるみたいだ。でも、どうして庇って大怪我したのかは分からない。誰も教えてくれない。今でも不思議に思っている。

 「それじゃ、どうするんですか?」

 「そうですね、ホワイト君。でも大丈夫ですよ! 私の友人に教えてくれる人がいますから。安心してください!」

 「そうですか! 先生の友人なら安心ですね」

 「それはどうかな? 会ってみないと分からないと思うけどね」

 「ライト君の言うことにも一理ありますね。それならライト君が見極めて判断してみて下さいよ!」

 「はい、そうしてみます」

 「オレ達の腹は決まりました。そうだろライト?」

 「まぁね、仕方ないからライトに付いて行くよ」

 「それじゃ、友人のいる所を教えますね。彼はこの国の西のはずれにある小さな町で一人暮らしをしているはずです。名前は【レイス】と言います。それと少し偏屈なおじいさんです。ほとんど家にはいなくて、すぐどこかに行ってしまうので連絡がまともに取れないので……会うのが大変かも知れないですね。今もそこに住んでいればいいんですが…」

 「それは大変ですね。でも、とりあえず行けばいいんでしょ!」

 「そうですね、ホワイト君」

 「この町から出ることはほとんどなかったから、なんかワクワクします!」

 「遊びではないんですよ‼ その気持ちは分かりますが、気を引き締めて下さいね‼」

 「それは大丈夫ですよ、僕が付いているから。それと、一ついいですか? ギルダーはどうするんですか?」

 「門下生のみんなを傷つけたので、それなりの対処をしようと思います」

 先生はちょっと怖い顔をしていた。

 「おい、なに勝手なこと言ってるんだ⁉」

 ギルダーはずっと黙っていたが、やっと喋った。

 「俺が簡単に従うと思ってるのかよ‼」

 「従うしかないでしょう。両腕が無い状態で何が出来るんですか?」

 「それは……それでもお前には従わない、ここで従うぐらいなら死んだ方がマシだぜ‼」

 ギルダーは先生を睨みつけて言った。なんでそんなに恨んでいるのか分からなかった。

 「そうですか……それなら仕方ないですね」

 先生はちょっと残念そうな顔をしていたように見えた。

 「あの、ちょっといいですか?」

 「なんですか? ライト君」

 「ギルダーのおっさんを連れて行くのはどうでしょうか? 僕たちの護衛にもなるし敵の情報も得られるかもしれませんし」

 ライトはなにを言ってるんだとオレは思った。元門下生とはいえ敵なのに。

 「危険だと思うので、止めた方がいいと思いますが……」

 「そうですか? 大丈夫だと思いますが。先生なら……」 

 「そうですね……連れて行くのもいいかもしれませんね……」

 先生とライトの会話はよく分からなかった。

 「お前らいい加減にしろよ。何でそうな話になるんだ⁉」

 「いや、その方が賢明な判断だとは思うぜおっさん‼」

 オレはなぜだかそう言った。オレにはギルダーのおっさんがそんなに悪い奴には見えなかった。

 「そうかもしれないが、そういう訳にはいかねぇーよ! お前らの先生だけは許せないだよ……」

 ギルダーは興奮気味でそう言いながら唇を噛みしめていた。

 「ギルダー。あなたは何か勘違いしていませんか? あの時も言いましたよね、私はあなたの父親【カイン】を殺していませんよ‼」

 え? 今なんて言った? オレはわけが分からなかった。

 「どういうことですか? 先生⁉」

 「ライト君達にはまだ言ってなかったですね」

 「そんなことはどうでもいいんだよ‼ 俺は確かにこの目で見たんだよ! あんたが親父を追い詰めているところを……殺そうとしているところを………」

 ギルダーはちょっと悲しそうな表情をしているような気がした。

 「そうですか……何を言っても無駄かもしれませんが、あれは逆なんですよ」

 「逆⁉ どういうことだよ⁉」

 「はい。あの時は私が殺されかけたんです。【常闇の扉】によって操られた【カイン】にね……当時は【深遠なる闇】と言う名前で呼ばれていました。自我を失ってしまい、最後には一瞬だけ自我を取り戻したんですが、誰かを傷つけるならと言いながら自ら命を絶ちました。私は止めることが出来ませんでした……それと、その頃は子供を誘拐する事件が多発していました。【深遠なる闇】によって。それで……子供たちを救おうと必死に【カイン】は活動をしていたんですが……」

 「なんだって⁉ そんなこと言ってなかったじゃないか‼」

 ギルダーは動揺しているように見えた。

 「あなたはあの日から2週間、ショックを受けて意識をなくしていました……目を覚ましてからは人が変わったようでした。生きているのに死んでいるかのような状態で1日中天井を見つめていました。そんな状態が1ヶ月程続いた頃、また誘拐事件が発生しました。その時は【カイン】の残した捜査資料によって子供たちは救い出されました。ただ1人を除いて……それがギルダー、あなたです。気付いたらあなたは忽然と姿を消してしまいました」

 先生は淡々と言いながらも少し目に光るものが見えたような気がした。

 「そんなバカな……デタラメ言ってんじゃねぇよ‼ 俺は自分から【常闇の扉】に入ったんだ……よ……あれ……」

 ギルダーは涙を浮かべていた。

 「ギルダー……おそらくあなたは洗脳されていたんでしょう。それが解け始めたんだと思います。その目を見たら分かります。あなたはちょっと乱暴な所もありましたが、根は優しい子でした。だから、ギリギリの所で理性を保つことが出来たのだと思います。今いる門下生達を傷つけなかったことがその証拠です。倒れていたのは、おそらく催眠スプレーなどで眠らせたんでしょう」

 ギルダーは目頭を抑えていた。

 「先生はなんでそんなことが分かるんですか?」

 「ホワイト君もそのうち分かるようになると思いますが、目です。目の動きや輝き、そこに自分の意思があるかどうかなどで分かります。眠らせたのが分かったのは匂いですね」

 「そうですか、すごいですね!」

 ギルダーは憑き物が落ちたかのような表情をしていた。怖い目つきが優しくなっていた。

 「なんとなく思い出してきたような気がするんだが、なんか頭にもやがかかっている感じがして……肝心なことを思い出せねぇーよ」

 「大丈夫ですよ! 徐々に思い出していくと思います」

 「でも、どうして洗脳が解かれていくだよ?」

 「それは、私が解いたからですよ」

 「え⁉ いつのまに?」

 オレは不思議に思った。そんなことをした形跡がなかったからだ。

 「それはですね。ギルダーを見た時に、簡単にですが術を掛けておいたんです。彼にはとても強力な術が掛けられていたので、ちょっと大変でしたが……なんとか上手くいって良かったです」

 今まではそんなに先生のことをすごいと思ってなかった。けど、すごいなと思い直した。

 「それで俺はどうしたらいいだ?」

 「それは、さっきも言ったように然るべき対応を受けるか、ホワイト君達に付いて行くかの2択ですよ! そのどちらかしかありません」

 「ちょっとだけ考えさせて欲しい……」

 ギルダーは下を向いて息を吐いてから言った。

 「分かりました。今は頭が混乱しているでしょうし、傷も痛むと思うので1日休みながら考えてくれればいいと思います。部屋がここ以外にないので、ここで休んで下さい」」

 ギルダーは無言のまま端っこで横になった。

 

「一つだけいいですかギルダー。自分で見たことも大事ですが、自分が感じたことも大切だと私は思います。時には自分の魂に従うのも必要だと私は考えています。そのことを頭に入れて考えて下さいね」


 こうして怒涛の1日が終わった。



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Trees and seeds @shou18

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