参勤交代
「あと2日か・・・。」
私は佐藤。東京に住むごく普通の会社員だ。しかし普通ではないことが1つある。それは我が社の制度である。
2日後。私は同僚の田中と駅のホームに立つ。
「暑いですね。」
「全くだ。東京は35度だってさ。」
「向こうはもう少し涼しければ良いんですけど・・・。」
私たちはこれから長野にあるとある村に向かう。村と言っても会社が買い取った土地なので、そこに住むのは会社の関係者だけだ。
「誰がこんな制度考えたんでしょうね。」
「余程の歴史オタクだったんじゃないか。」
「言えてますね。」
そう。そこに住むのは社員の家族なのだ。そして私たちは1月ごとに東京と長野を通わされている。長野にも会社の建物があって仕事には支障ないのだが・・・。
「毎回給料から電車代が差し引かれるのは痛いですね。」
「全くだよ。反乱なんて誰も起こさないのに。」
そう。反乱など起こす奴はいなかったのだ。今までは。
「社長、納得いきません。なぜこのご時世に参参勤交代のような制度が設けられているのですか。」
「高橋君。のような、ではなくて参勤交代そのものなのだよ。会社に刃向かう危険因子を家族を人質に取ることで黙らせる・・・。実に合理的な制度ではないか。」
「これは立派な犯罪ではないのですか。」
「この制度は会社の入社の条件だ。君たちは合意しているはずだが?」
「それはそうですが・・・。しかし。」
「まあ気持ちは分からなくもない。」
少しの静寂が訪れる。そして高橋は言い放つ。
「・・・私はこの制度を変えます。いえ、この会社を変えてみせます。」
「ふむ、すると家族を見捨てることになるが良いのか?」
「ええ、わかってくれます。」
「なぜそこまでする。」
「私はこの会社を正したいからです。」
「・・・よろしい。次期社長は君に決めた。」
「何ですって?」
「私は10年前にこの制度を作った。何かを捨てることをいとわず、会社を正しく導ける者を見出す為に。やっと夢が叶った。」
「そうだったのですか。是非精一杯やらせてもらいます。」
「うむ、頼むぞ。」
こうして10年続いた幕府は終わりを告げた。
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