平均

「あなたはこの機会を逃すなんてことはしないよね?」


私は会社勤めの普通のサラリーマンである。ある日、帰宅途中に路上で声をかけられた。


「何の勧誘か分かりませんが、私はまがい物が嫌いでして。お断りします。」

「まあまあ。まずは話しだけでも聞いてください。」


あまりにしつこかったので聞くことにした。


「僕が声をかけたのはある調査のためなんです。」

「何の調査ですか?」

「人は、自分がどの位置に属していると考えるかです。」

「・・・具体的にはどんな調査なんだ?」

「僕が皆さんに1つだけ質問をして、その回答をまとめているだけですよ。」

「じゃあ早く質問してくれ。」

「分かりました。では質問します。もし平均よりも低い給与の人は給与が今の半分になり、高い人は給与が今の2倍になる権利があるとします。あなたはそれを行使しますか?」

「・・・ふむ。つまり自分が平均以上の稼ぎを持つかどうかの意識調査、という訳か。」

「そういうことです。では回答を。」

「私は平均収入のデータよりも高い収入を得ているから・・・その権利、行使しよう。」

「分かりました。では申し訳ないのですが、回答した事の証明としてここに署名していただけますか?」

「署名だけなら・・・。」

「助かりました。ありがとうございます。」


そう言って男は去っていった。一月後、給料日が訪れた。しかしその額は先月の半分であった。


「課長、なぜ私の給与が先月の半分なんですか?」

「それは君、権利を行使したからだよ。」

「何の話です?」

「君は以前アンケートに答えたはずだ。」

「ああ、そんな事もありましたね。」

「あれはちゃんとした法律に則ったアンケートなんだ。だから法的に効力がある。君もちゃんと署名をしただろう?」

「何ですって?・・・しかし、例えあったとしても私の給料は平均を上回っているはずです。」

「それはなんの平均だい?」

「国民の給与の全国平均です。」

「誰もその平均とは言っていないはずだよ。まあ、誰も給与が2倍になる奴など居ないのだがね。」


そこで課長は冷酷に言い放った。


「判断基準となるのは、世界の国家予算の平均なのだから。」

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