「私は準備に命をかけていてね。半端な装備では登るつもりはないよ。」

そう話すのはとある高名な登山家。私は今回縁あってその男と一緒に山に登る。

「山では何が起こるかわからない。だから最大限の準備をするんだ。」

「その注射器みたいなのは何ですか？」

「これかね？これは毒虫に刺された時に毒を抜く器具だよ。」

さすがだ。準備が良い。

「ではこの銀の袋は。」

「それは非常事態に備えて防寒用のシートを小さく折りたたんだものだ。非常食も三日分、SOSサインを出す為のライト、火をつけるための水に濡れても大丈夫なマッチも持っている。」

素晴らしい。遭難しても問題ない。

「そのスプレー缶は？」

「これは熊よけスプレーと言って熊撃退用のスプレーさ。いつ出会うか分からないからね。」

そんなことまで想定しているとは。感服だ。思わずつぶやく。

「これで登山靴さえ忘れなければ完璧だったんですけどね。」

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