C-001-Section-003:New Face

 ビヨンド・ホライズンの死は即時に神聖都中を駆け巡った。テレビでは様々な著名人が彼の死に会見を開き、多くの視聴者がその報道に哀しみを向けた。神聖都の国王ジェネシスは、彼の死を「神聖都の英雄が、天へと召された」と表現し、彼とテレビ出演したアイドル・サーニャは「お爺ちゃん、安らかに眠ってね」とSNSでコメントを残した。

 ビヨンドの死を最も近くで看取ったクォーターは、彼の手渡された手紙を病室の待合室で読んでいた。手紙は紅蓮カルディアという組織の大まかな詳細と、それに配属される事になった人員がクォーターのもとへ訪れるという趣旨の内容であった。そして、その明記された訪問者とはすぐに対面することになる。

 喫煙所に移動し、煙草に火をつけ、一服するクォーター。読み終わった手紙を見つめながら、考えに更ける。そこへ、二人の少女らが様子を伺いながら、クォーターに接近しようとしていた。


「あれがそうなんじゃないか?」


 褐色の肌をした少女がクォーターを見ながら、金髪の少女に言う。


「私もそうだと思います。聞いてみましょう」


 金髪の少女はそう言うと、クォーターの前まで歩む寄った。


「あの! クォーター・トリニティさんですか?」


 明るく快活に発せられた言葉。それを聞いてクォーターは「キミは?」と質問する。


「初めまして! ビヨンドお爺ちゃんに聞いていませんか? 私、ティア・カタルシスって言います! 宜しくお願いします!」


 ビヨンドの手紙には、ティア・カタルシスとキュート・リグレットという女性が紅蓮カルディアに配属が決定し、クォーターの配下とすると明記されていた。だが、それが小柄でか弱き少女達であった事を目の当たりにし、疑った。

 ティア・カタルシスと名乗る少女は白い大き目な帽子を被り、セミロングの髪。青い大きな瞳が、純粋さを思わせる。短めなスカートで、今どきのファッションを取り入れているようだ。

 キュート・リグレットと思われる女性は、黒紫の髪で、顔の両横のもみあげだけを長くしたショートヘアーである。黒い服で身を包んだ、ティアが光なら、この女性や闇を印象付ける格好である。

 二人とも、まだ幼い少女。何かの冗談だとも疑ったが、ティアの瞳には嘘偽りは感じられない。そこをビヨンドは見込んだのだろう。クォーターは老人が向ける情熱の存在は、決して見かけではなく、力だけでもない。そんな魅力を推す存在であった事をクォーターは思い出した。だが、正直ここまでか弱き少女だと知ると、正直試したくもなる。そう思った彼は意地悪く質問することにした。


「キミ達が会長が選んだ人員だとは正直信じがたい」


 そのクォーターの言葉にカチンときたキュートが彼に詰め寄る。


「聞き捨てならないな。私達が女だからか?」


 彼の発言を男尊女卑と受け取ったキュートが過剰に反応する。


「一つの見方だと思ってくれ。オレにはそう感じただけだよ」


 きちんと返したつもりであったが、キュートは引き下がらなかった。


「偏見や差別が、その言葉に含まれているなら、例え自由な見方を主張しても、私達の名誉が傷つくんだ。慎んでもらいたいものだな」


 感情的にならず、論理的に表現を使い分け、丁寧に返すキュート。だが、そんな返しはクォーターは望んでない。クォーターは彼女達が組織の一員として適任であるかが、重要であった。


「私達の事が信用できないんですね…」


 残念そうに、クォーターの疑念の理由を理解したティア。クォーターは「悪いがそうだな」「だが、キミ達が嘘偽りを言っているようには思ってない。信じがたいだけだ」と、冷静に答える。


「これから信じさせるさ。爺さんから、アンタは人を警戒するって聞いてる。こうなる事も大体予想がついてたからな。アンタが自分から理解できない処に、私達への疑念を置くのなら、私達から理解を与える。それでいいか?」


 キュートはそう豪語し、紅蓮カルディアの初顔合わせはぶつかり合う荒波の如く幕を開ける事となった。

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