C-001-Section-009:Resolution

「よっし、リル。お前はテオリアと一緒に逃げろ。オレがあいつをやっつける!」


 ブラッドは翼神の始祖タイニーと戦いに構える。

 だが、後ろからリルがブラッドの腕をつかむ。先日の襲撃した魔族との戦闘での重傷を負ったブラッドの姿を思い出したのだろう。最悪なケースを考えてしまう自分がいた。不安で不安で堪らない。


「リル。大丈夫だって。今までだって乗り越えてきただろ? それに、オレはお前を残して死なねえよ。大丈夫。生きて帰ってくるから。な?」


 根拠などどこにもなかった。だけど、それを確信して言ってのけるところがリルが好きだった。だけど、やはり命とのやり取り。こんなときに、自分の好意が発生してしまう運命をリルは自分を恨んだ


「ブラッド。今回はゾーニング先生もいない。守ってくれる存在はいない。だが、お前しか、戦える存在はいない。リルは私が安全な場所へと移動させながら、助けを呼んでくる。それまで、生きていれるな?」


 リルの後ろに立ったテオリアが、ブラッドの覚悟を確認する。ブラッドは「もち!」と、言い、テオリアに応える。今までのテオリアなら理屈が先行し、止めに入っただろう。だが、今は不思議と笑みが出た。


「ブラッド。お前は誰かの為に命を捨てる覚悟はできる人間だ。男というものは、そうでなければいけない。私は自分にその覚悟に捧げる命を守るだけの力がない事を悔しく思う。だから、せめて今はリルを避難させ、助けを呼ぶ。こんな頼りない教師で許してくれ」


 自分の非力さを詫びるテオリア。すると「十分!」と、ブラッドは一言返し、翼神の始祖タイニーへと向かっていった。

 「ブラッド!」と、リルは呼び止めようとするが、テオリアが後ろから手を引っ張る。


「リル。男の覚悟を女は見守るものだ。例え、それで命が散っても、証は残る」


 テオリアはブラッドの覚悟を信じた。リルはテオリアの言ってる事に納得も理解もする余裕などなかったが、半ば諦めて受け入れる事にした。


「よっし、来い!」


 ブラッドは剣を鞘から抜き、翼神の始祖タイニーに構えた。


(でも、どうすっか。作戦なんて考えてねえぞ!?)


 覚悟だけでは、戦いは潜り抜けられない。勝利する為には、作戦も考えなければいけない。魔族襲撃の際は怒りのごり押しでやっつけたが、今回はそうもいきそうにない。

 ふと、ブラッドはゾーニングとの授業の事を思い出した。


「ブラッドは、真っ直ぐな太刀ですね。ですが、故に粗も目立ちます。単純といいますか。工夫がないんです。デイブレイクも、力技ですから。読みやすいんです。ですから、少し、相手に隙を作る事をおすすめします」

「隙を作る?」

「方法はいろんなものがありますが、一直線に考えるブラッドは多様性に目がいかないタイプですからね。考えるのも難しいでしょう。ですが、例に挙げるとすれば、単純に考えて、剣術だけがあなたの個性ではないって事です」

「剣術だけが、個性ではない…」


 授業内容で、特に印象に残った部分を列挙して思い出すブラッド。剣術だけが個性ではない。という言葉を自分なりに考えて閃いた。その内容に笑みを浮かべるブラッド。


「うまく行くか、わかんねえけど。やってみるか!」


 ブラッドは、翼神の始祖タイニーに突っ込むのはやめて、林の中に走り出した。地形をうまく使ったとそれを見て翼神の始祖タイニーは判断する。同時にそれも小細工と、翼を刃に変えて、林の中に放った。無数の刃が林に突き刺さる音。

 そして、その音が消えた瞬間、後方から翼神の始祖タイニーは気配を感じた。再び翼を刃に変えて、その気配に向けて放つ。

 しかし、その気配の正体はブラッドの上着を着た丸太であった。すぐさま、前方から気配を再び感じ、刃を向ける。しかし、今度は丸太ではなく、何かの瓶だった。その瓶に刃が刺さった瞬間、瓶が爆発を起こす。


「どうだ~? 魔法爆弾の威力は。護身用に持っておいてラッキーだったぜ」


 爆風の隙を見て上空から、フロートボードに乗ったブラッドが翼神の始祖タイニーめがけて、直下する。既に、十八番の必殺技の構えはできている。翼を刃に変えて放つ隙を与えず、ブラッドの必殺技が、ぶつけられる。


「一撃必殺・デイブレイク!」


 ブラッドの必殺技が、翼神の始祖タイニーの首から胴へまっぷたつに切り裂いた。


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