母は昔からステロイド治療を頑なに拒んでいた。

私は良くなるのであれば、受けたかったが、

母の答えはいつも「NO」だった。


理由は単純なもので、

私が幼い頃にちょっとした手術の際、

軽いアトピー性皮膚炎を見た主治医が、ステロイド治療を勧め、結果酷く悪化した事だった。

母は元々大層大らかだが、その件の後、

とてもハウスダストや、食品、色々なことに過敏になってしまったのだと思っている。


しかし、あまりに酷くなった私の症状により、

大きな病院で診て頂いた時、

その時の医師の一言と、母の表情は忘れないだろう。


「ここまで酷くなったのは、お母さん、あなたのせいです。今治さなかったら一生この子はこのまま酷い症状のままですが、それでもステロイド治療をしないのですか?」


母の顔は、哀しさと、後悔と悔しさと、

私では測りきれない沢山の混沌とした顔だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る