第6話 雨の日の一時

自分の正体を話そうとした瞬間

昔、同じような体験をした事を思い出しました。


それは、10歳の時

神殿に通うのも慣れてきて、一人でも行く事も多くなって来た時の事です。

いつものように手を合わせ、鍛冶屋に戻ろうとして、後ろを振り向くと

バケツをひっくり返した様な雨に襲われ、神殿で立ち往生していました。


雨のせいか周りは暗く、風が吹くと、獣が唸り声を上げているように聞こえてきました。


孤独と恐怖から、私は身体を丸くして目を瞑り、雨が止むのを待っていましたが

止む気配は無く寂しさのあまり、思わず涙を流してしまいました。


すると、私の横に誰かが座りこんだのが、感覚でわかりました。


近づいてくる足音も聞こえず、この場所に居たのは私だけのはず

ゆっくりと顔を上げ、誰かが居る方向を覗いて見ましたが

顔はぼやけて、よく見えませんでした。


体つきから男性だとわかり、思い切って話しかけようとしましたが

私の視線に気づいたのか、男性は待っていましたと、言わんばかりに此方に身体を寄せて


『俺の正体は、ここの神殿の主だぞ、つまり剣の精霊ぞ

人間たちの名前だと、ハイ・・・』

名前を話そうとした瞬間でした、とてつもない威力を誇る落雷が、近くの

木に直撃し、閃光と轟音で私は意識を失ってしまいました。


次に目が覚めた時には、ハイルフのベットの上で横になっていました。

帰りが遅く、豪雨だった為にハイルフが心配して神殿まで探しに着てくれたのでした。


鍛冶屋に帰ってこれた安心から、再び眠りにつきましたが

私の頭の中でハイルフと神殿で話したと、改変されていました。


それから、とても怖い思いをしたはずの、この記憶が蘇る事はありませんでした。


そして今、目の前に居る小人が声に出そうとしている言葉を、同時に私も

『俺の正体は、神殿の主、剣の精霊ぞ』

二人の発した言葉は、練習したかの様にシンクロし、互いを驚かせ合いました。


以前、話しかけられた時よりも、声のトーンが高い気がしましたが

あの出来事は本当に精霊との一時だったんだと実感しました。


落ち着いた小人が姿勢を正し、咳払いをして

『人間たちの名前だと、【ハイネ・ベル・ルッシーニ】 以前会った時は

自己紹介で倒れてしまったので、心底驚かされたぞ、よろしく頼む』



何故、剣の精霊が見えるのか、目の前に現れたのかとても

気になりましたが、それ以上に私は今の悩みを打ち明ける事にしました。


剣の悩みは剣の精霊に尋ねるのが、一番だと思ったからです。


この考え、この出会いから、今後の私の道が、徐々に見えてくるのでした。






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