第4話うわっ! きたなっ!

 いつものように家族で夕飯を囲んでいた。メニューは肉じゃがだったのだが、食卓の真ん中に一つ深皿が置いてある。中には半月型の大根と豚肉を醤油や酒などで薄味に煮込んだものだ。うちの家族の好みなのか、こういった感じの料理が一番出てくる。


 僕はいつも通り最初に頂きますと言ってから、みそ汁に手を付けた。正面には妹がすでに座って大分食べてしまっている。僕と妹には似た癖が有って、ご飯を食べているときは食卓の脚と脚を結んでいるバーに足を乗っける癖がある。そして、うちの食卓はそのバーが真ん中に一本しか通っていないないのだ。こうするとどうなるか。当然足と足がぶつかる。決して触れ合うではない。ぶつかるのだ。今日も無意識に足をバーに乗せようとすると、一瞬やわらかいものにぶつかる。そして妹は真正面から僕を睨み付けて、足を蹴り飛ばしてきた。しかたなく僕は脚をバーに置くのをあきらめる。最近の夕飯は毎回、ここから始まっている。


 僕は次に深皿に箸を伸ばした。そして染みた大根を味わう。


「うわっ! 何してんの。やめてって言ってるじゃん」


「何の話?」


「だから、自分の箸で大皿の物を取らないでよ。取り箸でとって汚いから」


 この時、妹の頬が羞恥に染まっていれば間接キスを恥ずかしがる理想的な妹になるのだが、悲しいかな。この時の妹の表情は怒りと蔑みしかみて取れなかった。


「鍋の時もそういうの?」


「鍋はいいの。ずっと煮込んでるから」


 つまり、箸を伝って病原菌が移るとでも言いたいのか。お前の体の中も病原菌だらけだぞと言いかけたけど、どうにかこらえる。そんなことを言ったら火に油を注ぐようなものだ。


「もういい。それ食べないから」


 そう言って、僕の話を聞かずに妹は自分の肉じゃがをさっさと食べて、自分の部屋へと行ってしまった。僕は後日思い出して膝を抱えながらキーボードをたたくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る