第3話 気持ち悪っ!!
僕は夏の暑さで目が覚めた。体調の為にエアコンにはタイマーをかけるから、最近の目覚めはいつもこうだ。寝間着代わりのスポーツウェアが肌に張り付いてくる。今は夏休みだし時間があるからシャワーでも浴びよう。
それを我慢しながらリビングにいくと、母親の筆跡の置手紙と鍵と千円札が一枚ダイニングに置いてある。手紙の内容を読むと、妹のチャリがパンクしたから心があるなら直しに行って。だそうだ。
「心があるならって、そんな書き方されたら断れないじゃん」
シャワーを浴びて朝ご飯を食べてから早速行く事にした。
けど、僕はエレベーターに乗って駐輪場に行くと愕然とした。妹の自転車の色はまっピンクだったのを僕は忘れていた。それも目が痛くなるようなショッキングピンクだ。女子たちはよく恥ずかしげもなく、こんな色の自転車に乗れると思う。
置手紙にあんな書き方をされていたから、しかたなく覚悟を決めて、ノイズキャンセル付のイヤホンを耳に突っ込んで再生ボタンを押して、自転車を引き出した。その時、イヤホンから流れてきた「もう何があっても~、挫けな~い」という歌詞が、僕を更にげんなりとさせた。
音楽をロックに変えて歩き出すと、心なしか町の人々が僕を見た瞬間に笑いだしたり、ひそひそ話出したりしている気がする。修理屋さんの店主の顔がずっと固いのは笑いをこらえているからなのか。そんな気がしてならなかったので、さっさと帰ることにした。もちろん帰りもイヤホンの音量は大きめで、自転車は後で何を言われるかわからないから押して帰った。周りの声なんて絶対に耳に入れてたまるか。
母親と妹との三人で夕飯を食べているときに、僕は直しに言ったことを伝えた。母は「ありがとう」と簡単に言ったが、妹は。
「直しに行ったって、私のチャリを?」
「うん。そうだけど」
と、素直に教えると。
「気持ち悪っ!! 男があのピンクのチャリをとか。引くわ~。サドルには乗ってないよね?」
「もちろん乗ってないよ」
やっぱり、行かなければよかったかもしれない。休日にパソコンに向かって思い出しながら書いているときに、心からそう思った。
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