第2話 疲れたんだけど

「死ね!」


 そう叫ばれた時に僕は勉強の合間にスマホのゲームで、同じ色の的を一筆書きで繋げていた。はっきり言って楽しくはなかったけど、アイテム集めの為に周回していた。外は日差しがきつく洗濯物も二、三時間外に干したら乾いてしまう程だった。多分日に日にひ弱になっていく僕も二、三時間外にいたら干からびてしまうかもしれない。だからエアコンの下で息抜きしてたら、いきなりのこの暴挙だ。


 部屋のドアを開けている僕の妹は、中学の指定のポロシャツにハーフパンツ。そして額には汗が浮いていた。部活に行って帰って来たばかりなのだろう。朝に部活に時間がないと叫びながら飛び出していくのをつ見ている。なのになぜいきなりこんな事を言われないといけないのか。


「いきなりそれは酷くない?」


 言外になぜそんな事を言うのか尋ねたけど、プイッとそっぽを向いてリビングの方に行ってしまった。僕は今の質問の答えを聞くついでにと、机の上のぬるくなったペットボトルを手にとって、妹の後を追いかけた。


 ペットボトルを冷蔵庫にしまうと、リビングのエアコンをつけた妹がさっきの事は忘れたと言わんばかりに、言い放ってくる。


「冷凍庫のパプコ食べんなよ」


 なんとも高圧的なことか。しかもそのコーヒー味で二つに分けられることで有名なパプコの、残っていた半分は僕がお昼の時に食べてしまっている。自分で買った訳でもないだろうにと心の中で毒づく。


「ごめん。もう遅い」


「死ね!」


 ……どれだけ僕に死んで貰いたいのだろうか。


「あ、さっきはなんで急に死ねなんて言ったの?」


 話の流れを変えようとしたけど、悲しいかな。僕は会話の主導権を握れるような人間じゃない。口が上手いわけでもない。だからなのか、結局はあんまり話の流れを変えられてなかった。


「なんでチャイム鳴らしたのに鍵開けてくれないの。おかげでばあばの家まで行ったから、疲れたんだけど」


 なんで鍵を持って行かなかった。真っ先にそう思った。おばあちゃんの家までは片道五分位だから、こうして鍵を忘れた時はいつも取りに行っている。僕も何度もお世話になってる。


「ごめん、音楽聞いてて気づかなかった。けど、いきなり死ねはないだろ」


 反論したがまさに馬の耳に念仏。僕の文句も知らんとばかりにシャワーを浴びるためか風呂場に行ってしまった。そして脱衣所のドアが閉まろうとしたところで、妹がドアの隙間から顔を出して来た。


「炭酸水を冷蔵庫に入れといて」


 ひどい。そんな所に逃げこまれたら乗り込んで文句することも出来ないじゃないか。ここで脱衣所に入っていって一喝するほどの度胸は僕にはなかった。本当にこんな事を平気で言って来る女性とは結婚したくない。家が安息の地ではなくなってしまう。


 とりあえず僕は炭酸水をクローゼットの段ボール箱から移したら、部屋に戻ってスマホを手に取りカクヨムをブラウザで開いて、ポチポチと文字を打ち出した。

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