中学二年生になった妹が横暴なんです
三枝 敦
第1話 この自己中。空気読め
中学二年生になった最近の妹の帰りが遅い。
その理由はグレたり夜遊びをしているという訳ではなく、ただ単に塾へ行きだしただけだ。まぁ、別に妹が塾へ行っていることはどうでも良い。むしろ、煩わしい妹がいなくなった事で僕としては嬉しい。
大声で歌を歌う。勝手に僕の電子辞書を借りて行って、そのまま返されない為に次の日は学校へは忘れて行ってしまったり、テレビのチャンネルを奪い合うなどの面倒ごとがなくなるからだ。
本当に、変わったことがこれだけなら良かった。だけど、いい事しか起こらないという訳には行かなかった。何があったのか、順番に書いていきたいと思う。
まず、事の始まりは二十一時半。この時間はどんな時間かというと、あと十分程すれば妹の塾が終わるので、母親が迎えに行くために車で出かける。ちなみに、僕が中学の塾に行ってた時は台風の日や雪の日ですら送り迎えをしてもらった覚えはない。が、これもどうでも良い。大切なのは、僕のお風呂に入る時間が十時だという事だ。
母親の行ってきますの声が聞こえたので丁度良い時間だろうと思い、風呂にお湯を張った。寝間着の準備をしたり、LINEの返信をしているうちにお湯が貯まったのか、チャイムが鳴った。当然、直ぐに裸になって体をお湯で流してから風呂に浸かった。ゆっくりと目を閉じて速くなる血流を感じ、沈んでいく意識に身を委ねる。
それからどれくらいの時間が経ったのだろうか。それは分からないが、塾までは車で片道十分程なのであまり時間は過ぎていないだろう。僕は玄関のドアが閉まる音と妹のただいまという声に叩き起こされた。僕はもう一度寝れそうにはなかったので、浴槽から上がって髪を洗い出した。そして、妹は手洗いうがいをする為に、風呂場の隣の洗面所に入ってきてこう言った。
「あれ? 今風呂に入ってるのってお兄ちゃん?」
「ああ、そうだけど」
聞かれたのでもちろん答えた。そのあたりで僕は頭の泡を流す為に手探りでシャワーヘッドとノズルを探す。
「そう。なら、風呂には浸からないでね」
そう言って妹は洗面所から出て行ってしまった。音からしてリビングへと向かったのだろう。しかし、こんなに理不尽な事はない。だって、風呂に入ってる相手に向かって風呂に入るなって言ったのだ。僕はシャワーだけを浴びる国の人ではない。日本人だ。果たして、どんな性格になればこんな事が言えるようになるのだか。そして、こんなニュアンスの事を言われるのは父親だけではないのか。最近はわけあって、清潔である事を心がけているというのに。
そして、一番の問題は既に僕は風呂に浸かってしまっている事だ。これはどうしようもない。入れ直すにも水道代ももったいない。なので僕は開き直って体を洗った後に再び風呂に浸かった。
話はまだ続き、僕は風呂から出てパジャマを着て、リビングへ向かった。そこでは妹と母親学級テレビを見ていた。なので僕はさっき言われた理不尽の腹いせにこう言ってやったんだ。
「さっき風呂に浸かるなって言われたんだけど。ちょっと横暴すぎない?」
と、あえて母親の目の前で言った。既に浴槽に浸かっていたことには触れずに、ほんの一部分の事実を言った。この時に母親は何を思ったのか僕が知ることはなかった。妹の言葉がバッサリと、部屋と僕を切り捨てた。
「この自己中。空気読め」
どうやら僕が風呂に浸かった事は気づいたらしい。入り直したのだから、当然か。そして空気を読む読まない以前に、空気ですらなかったものをどうやって知れと言うのか。とんでもない理不尽だ。むしろ、自己中なのはお前だと言い返してやりたかった。僕が何をしたというのか。ただ、風呂に入りたい時間に入っただけなのに。
言いたい事は山ほど出てきたが、僕は大人だ。中学二年生の妹とは違う。四歳も年が離れた兄だ。だから、ここで怒りに任せて言いたいことを言うのは賢明ではない。そうだ。この程度の事で怒るほど、僕は子供ではない。精神はそれなりに大人なはずだ。
その答えに至った僕は静かに部屋に入り、扉を閉めて、椅子の上で膝を抱えながらスマホを握りカクヨムにログインして、静かに新しい小説を作成を押して、ノンフィクションを押した。
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