第8話 その時にはもう始まっていたという話 3月29日夕刻
神無木は、何も指示を受けていないはずなのにスラスラと魔法陣を構築していく。
魔法陣は空間を指でなぞるだけで姿を現していく。
円形のアウトラインから多くの直線を考えるよりも速く伸ばしていく。
魔法陣は光を発し、何かを求めるかのように畝る。
それは細さ、長さ、色の違う数多の線が神経であるかのように。美しく。細やかに。
その姿はまるで物資以外の何かでしかなかった。
それは1辺が40cmほどのものであった。
神無木の描いた魔法陣は円形ではなく、左右非対称の歪な形をしていた。しかし、歪な形ではあるが、機能性は保証されていそうな美しさがあった。
「こんなもんか」
神無木は汗を拭うような仕草をする。
「なんで疲れてんのよ」
エマはただ描いただけでしょ?と、演技しないでよみたいな反応を返す。
「魔法陣描くのって疲れないのか?」
曇りのない純心な目でエマを見返す。
発動せずに、描くだけで体力を消耗する魔法陣なんて聞いたことがないと馬鹿にしたようにエマは続ける。
「確かに少しは体力とか魔力とか使うかもしれないけれど、目立って消耗するほどのものでもないわ」
相当魔力ないんじゃないの?と呆れたように続ける。
「せっかく買い取ったのに見込み違いね」
「なんだよそれ」
「まるで俺みたいな一般人にモデルやらせて『やっぱり無理だね君』とか言ってる無茶苦茶な奴じゃねーか」
神無木は全身から力が抜けるようなため息をつく。
「……まぁ仕方ないか」
エマは期待していた。
神無木を。人間を。潜在能力というものを。
それでも異世界は異世界だ なさ……( ˊᵕˋ ) @Nasa-00008
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