第6話 ケチャップ 3月29日午前
エマが姿を消してから数時間がたった。
何もすることは無かったので、生き返る時にもらった白紙のカードと能力について知っておくべきだと思った神無木は、部屋の机にカードを出す。
能力はもらったといえばもらったのだろうが自覚がないので出しようがなかった。
「よしっ」
気合を入れるひと言といえば最近はこれだろう。
「まぁまずはカードだな、でも...どうやって使うんだろうか」
一般的にカードと言って想像するのはクレジットカードとかトレーディングカードゲームとかの小さなカード類だと思うのだが、このカードの場合は全く違っていた。
「まずカードというより巻物だよなこれ...」
辞書並みの厚さがあるのににさらに1枚1枚がトレーシングペーパー並の薄さと来たもんだ。
破れそうで怖いな。
しかし、どんなにやっても破れる事は無かった。
「破れないならどんな実験しても平気だろう。」
まずは水で試してみるか。
結果・反応なし。水分の付着なし。
「えーじゃあ次!」
第2試合はカードに調味料をかけてみる。
冷蔵庫と戸棚からあるだけの調味料を持ってきた。
ケチャップ、ソース、真空の醤油、麺つゆ、ラー油、ごま油、オリーブオイル、植物油、コショウ、岩塩、酢、調理酒、コンソメ、味の素、クレイジーソルト、コチュジャン、豆板醤、味塩、マヨネーズ、ウスターソースなど。
これだけ揃っている家もなかなかないのではないだろうか。
他人の家の調味料なんて見ないからわからないのだけれど。
カードに直接かけてみたり、すり込んでみたり、浸してみたり、煮てみたり、全部をいっぺんに混ぜてかけてすり込み数分置いてみる。
さっき水が付着しなかったことを活かして水で洗い流す。
結果・反応なし。調味料の付着なし。
「水がつかないなら油はどうかと思ったんだけどな」
第3試合。
念じる。
その名の通り書き込みたいものをカードに乗せて念じるだけ。
とりあえず必要な分だけカードを開いてケチャップを上に乗せてみる。
「さあさあカードの神よケチャップの神よ!われに力を与えしロリータポニーテールよ!私、神無木は主にトマトが使われている紅色の油、トマトケチャップのカード内への転移を要求する!神よ我に力を!」
長々と中二病を軽く見ているかのような、とってつけた言葉を並べてみる。
「さあ、次か」
しかし、カードは神無木の考えを無視し、反応し始める。
「ん!?」
カード全体が神々しく輝き、蒼き光りを纏う。ケチャップは不純物を取り除くかのように光の粒に姿を変え、白鳥が群れて空を飛ぶように光はまとまり、カードの中に勢いよく飛び込んでゆく。
カードは浮き上がり、部屋中が発生した爆風によって汚さを露わにする。
数秒後、カードの猛威は去っていき、何事も無かったかのような沈黙が流れる。
「マジか...」
カードの中にはケチャップが描かれていた。それはそれは実物のような絵だった。
「あんた面白いわね!」
顔を真っ赤にして笑い転げるのはエマだ。
「エ、エマ!いつからいたんだよ!」
なんか変な呪文唱えている時からかなと苦し紛れに答える。
言葉すらでてこないほど面白かったらしい。
「そのカードはねぇ、白紙の要塞って呼ばれるほど頑丈でね、中のものはしまったときの呪文を唱え直すことで取り出すことが出来るの。つまりは中にしまった時の呪文以外ではどうやっても取り出せないのよ」
「あんた、さっきの呪文覚えてる?」
覚えているわけがない。
「じゃあもうこのケチャップは...」
「そう、カードの中で時間の流れを無視しながらそこにとどまりつづける」
やらかしたー!
完全に怒られるパターンのやつだ...
「試しにもう1度別のもので試してみなさいよ」
今度は指示通り、短い呪文でコショウをしまってみる。
「コショウをしまえ!」
先ほどと同じく、部屋が荒れた。
「じゃあ出してみようか」
「コショウをしまえ!」
しまえ!と勢いよく言うと、言葉とは正反対にコショウが現れる。
召喚する時は特に何も無いみたいだった。
(手抜きかよ...)
「おめでとう!でもこのカードには所有量制限があるから気をつけて。じゃあこれでカードの使い方はマスターしたわね」
今日神無木はケチャップを失い、妹からの説教という自動消費のチケットを入手した。
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