第3話 一人ぼっちの帰り道 3月27日午後


1年生の頃に帰ったきり、1度も歩いて帰ることのなかったその道。

ほんの1年では何一つ変わっちゃいなかった。


人気の無い住宅地、ヨーロッパとかにありそうな銅像の顔をしたおじいさんの家、前からあるとされる木造二階建ての駄菓子屋さん、そこそこ美味しいと言われるラーメンのチェーン店。


だそうと思えばいくらでも出てくる。

そこまで思い出はないのに覚えているのは何故だろうか。

とても不思議な気分だ。


色々と懐かしみながら歩いている時だった。

黒髪ロングの可愛い?顔が良く見えなかったが、


黒髪ロングということはきっと可愛いのだろう


という希望的観測により、同じ高校の制服を着た女の子は可愛いということになった。


初めてあったはずの彼女には何故だか懐かしい匂いを漂わせていた。


「あの...」


いつの間にか少年は話しかけていた。

彼女は目を丸くして後ずさりを始めていた。


『何?この人こんな住宅街でナンパ?』


と言ったところだろうか。

残念ながら少年は完全無敗の変態男になっていた。


「ごめん、な、何でもない」


とっさに声をかけたことにより、不快感を与えてしまったであろうことに対し謝罪し、

『何でもない』

という要件だけを言い残し、その場を立ち去ろうとした時だった。

黒髪ロングの女の子は一言、たった一言だけ返答をした。


「何でもないんですか?」


彼女は少年のことをナンパ男何てこれっぽっちも思っていなかったみたいだった。


ーーなぜかって?上目遣いで何でもないんですか?なんていわれたんだぞ?普通返答しないぜ?


「え...」


返答してくれた事にも多少は動揺したが、それ以上に顔立ちが地球人、いや、惑星から生み出されるとは思えない完璧な美少女だったのだ。

そんな人と出会って動揺しない方がおかしい。


まず彼女を見て思ったこと...それは当然


『彼氏持ちかどうか』


それ以外に思う事とすれば


・可愛い!


・想像したのが失礼なくらい可愛い!


それぐらいだろう。

それ以外は自主規制モンだからやめておこう。


最も大切なこと。

何よりも自分の体験してきた中で最も不思議なこと。

それが彼女。


脳裏をよぎった記憶の主であろう彼女。


「?」


不思議そうな顔でこちらを見上げる女の子。


ーーうん、可愛い( ˊᵕˋ )


「いやいや、何でもないよ!」


「?」


「ところで君?名前は?」


あからさまに嫌そうな顔をされてしまった。


「そっか名前を聞く時は名乗ってからだよね」

「ごめんごめん」


そう言ってあっさりと名乗る少年。

これはあとになってわかることだが、この名前を言ったことが運命の選択肢のbルート。

つまりは人生の分岐点というやつだ。


彼女は名乗りはしないが呼び方は指定していた。


「カコとお呼びいただいて結構です」


どこか距離感を感じる言い方だった。

まぁそれもそうだろう。

だって初対面なんだから。


「何年生?クラスは?」


なんだか職務質問、もしくは補導をしている気分になった。


「2年、今から学校で今村先生にクラスとかいろいろな説明を受けるとこだからクラスはわからない」


「...転校生?」


「うん」


転校生。

高校での転校とかほんとにあるのか。

漫画とか小説だけだと思っていた。


「学校まで一緒に行こうか?」


かっこよくそんなことを言っては見たものの、ご丁寧に断られてしまった。

全く、出会いが肝心だというのにヘマをしてしまった。

記憶の話もできないままだし、肝心なところでミスが目立つと中学校の成績表にも書かれた気がする。

まぁ、彼女は記憶の主である。それだけは確定事項だ。

そうして少年は帰路につく。


少年はこのあと、帰り道に交通事故に合った。

理不尽な。

不可抗力とも言える。

気づいたとしても避けることは出来なかった。

それが霊長類最高の反射神経とか瞬発力があったとしてもの話。


少年は高校2年の春 3月27日 午後

死を迎える。

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