第2話 静かな校舎 3月27日 午前

第2話 3月27日 午前

あの瞬間に脳内をかき乱していった記憶は一体誰のものなのか...

一人称目線であったことからそう考えることにする。

そしてその記憶はとてもとても鮮明であった。

自分の記憶すらかき消しそこへ上書きされてしまうのではないかと身震いがするほど。

現状、全くもって何も起こってはいないのが不思議なくらいだ。

そう思ったのも、その記憶は記憶の主がどんな生活を送り、どんな生き方をしているのかがわかるくらいとても長かったから。


「一体何なんだ...」


そんな事を考えていると、強い日差しが直接まぶたを照らしていることに気がついた。


「もう朝か」


いつも施錠がしてあるはずの窓が開いたままになり、カーテンもしまりきらずにひらひらと重さを備えつつ軽々しく風に煽られていた。

そしてカーテンと窓枠のあいだから差し込む直射日光は殺人光線をあてるかのように目に照準を合わせていた。

ゆっくりと身体を起こし、

あの瞬間がなかったかのように少年は年季の溢れる中学校とはボタンと校章のみを新調した制服に身を包む。

少年は部活動には入っていない。

そのため、学校指定のカバン以外に持っていくものなどはなかった。

家には中学3年になる妹と共働きの両親がいる。

しかし母親は海外へ、父親は九州の方へ単身赴任中なので、事実妹との二人暮らしのようなものである。


「妹よ、しっかり鍵は閉めてね」


「じゃあ行ってきます」


その日は3月27日。

少年は先生の呼び出しのために、静かな学校へと足を運ぶ。


電車とバスを乗り継いで約30分。

学校前のロータリーまで入ってくれるこのバスは少年と他の学生達を下ろした後にゆっくりと元来た道を辿り、去っていった。

先生には教室で待っておけと言われたのでいつも通りに自分のクラスの自分の席に着く。

学校の校則では携帯電話、スマホ等は原則として使えないが、携帯ゲームの持ち込みは禁止されていない。

そんな屁理屈でカバンの中からPFPを取り出し電源ボタンに指をかける。

小さなカチッという音とともに何年間もやり続けているオンラインゲームがスリープ状態から目を覚ます。

ゲームをやり始めてから約30分。

予定の3月27日の午前9時はとっくに過ぎ、時計の針は9時45分をさす。


「今日であってるはずなんだけどな」


そう言って再び液晶画面に目を向け、ゲームの世界に入り込む。


クエストを一つクリアした頃にはもう1時間30分がたち、11時17分を指していた


「今日じゃないのかな...」


そんなことを言いながら校門を出る。

当然、帰るという選択肢しかないのだが、その時は


『少し歩いて帰ろうか』


そんな事を思ってしまった。

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