白山へ向けてのトレーニング登山のはずが
茶臼岳から朝日岳の登山を終え、後はK子がいる間に白山の計画を練る。白山も人気があるので、7月の山開き後はなかなか宿とかとりにくそうなので、4月中に決めてしまわなければ危ない感じだった。宿とJRのチケットがパックになったものがあるのを見つけた。登山口までホテルから送迎してくれて、朝ご飯をお弁当に変えてくれる登山宿泊プランなるものがあり、残り僅かだったので直ぐに手配した。これで白山への宿と切符の手配は終わった。後は、コース決めだ。
私は、立山登山の時にお世話になったM男さんにメールをした。
「突然ですが、去年お話ししてました白山登山、7月に計画しました。K子は事情があり、会社を退職して関西の方に行ってしまいましたが、白山には行きます。これが、K子と登る最後の山になります。もう宿と切符の手配も済ませました。色々教えて下さい」
「連絡、有難う。K子さん随分遠い所に行ってしまったんですね。今、分かっている情報を教えて下さい。案を幾つか考えます。それと、一緒に登りたいです。連絡待ってます」
本当はストレートに「一緒に登って頂けますか」と聞きたかったが、遠回しに言ってしまった。勝手に日程決めて宿を手配した後に連絡したので、M男さんの都合が分からなかったから。
「是非、一緒にお願いします!」
と、返信して詳細情報をお知らせした。
M男さんから、登山計画がメールで送られてきた。素晴らしい、完璧な山行計画だった。
これで全て整った。後は、その日を待つだけのワクワクした日々になった。
私はその間、長丁場となる山行であるのと、標高もあるので、不安のある昔痛めた右膝の心配もあり、筋力アップも兼ねて、トレーニング登山する事にした。不要な物もザックに詰めて、いつもより重い荷物を背負ってのトレーニング登山。
出発まで、3回の山行計画を立てた。いつもなら一緒に行くはずのK子はいないが、それでも、白山でM男さんも含め3人で登れる事が嬉しくて、パワーみなぎっていた。
2015年5月。1回目のトレーニング登山は、山頂の碑を間違えてしまい、本当の山頂に行っていなかった事に気付いた「山梨県にある標高2,057メートル、日本百名山の「大菩薩嶺」に2回目のアタック。
山荘もあるので、帰りに山荘で休憩する楽しみも加えて選んだ。天気も良く大菩薩峠に着いた。そこからの眺めは最高だ。乗鞍岳、八ヶ岳は雪化粧してて綺麗だった。そして富士山。富士山見えると自分の中では何故かハッピーな気分になる。素敵な眺めを前にして、携行食と飲むゼリーで休憩。
「良い眺めだ」
さて、今度こそ山頂に行きます。間違いなく山頂に着いたが、山頂は展望がなく、余りにも大菩薩峠が展望が良かったので、山頂では写真撮ってまた大菩薩峠に戻り下山した。
途中、山荘の入り口に「アイスキャンデー」のメニューが目にとまり、すかさずソーダー味のアイスキャンデーを購入。外のベンチに腰掛け食べた。下山後のアイスキャンデー、格別に美味しかった。
1回目は無事にリベンジも果たし山頂に行けホッとした山行であった。
2回目、2015年6月。今度はロングコースだ。東京都八王子市にある標高599メートル高尾山から、城山、景信山を経て東京都八王子市と神奈川県相模原市の境界にある標高854.8メートルの陣馬山まで縦走。
途中茶店はあるので、コンディションに合わせて休憩もとれるので気は楽だった。
高尾山過ぎて、次の城山の茶店で休憩しアイス食べた。そして次の景信山に向かう途中で足が攣り、何度か立ち止まり攣りをほぐす。ここまでストック使わずに来たが、ストックを使用して歩く事にした。景信山に到着。ここの茶店で休憩し、足のマッサージ。ここまでも、もう何度か足が攣っていた。こんな事ははじめてだった。最後の陣馬山に向けて歩きだすが、ここからは未踏の道。途中で「陣馬山を諦めるか」と何度も足が攣る状態が続き頭をよぎったが、 巻き道を使い陣馬山山頂に到着。
足が攣って、攣って辛い縦走の果ての陣馬山。あの有名な白いお馬のモニュメントに早く会いたくて仕方が なかったので、見えた時は本当に嬉しかった。諦めずに来て良かった。もうヘトヘトで、茶店で山菜うどんを注文し、外のテーブル席に座り込んだ。
「感無量」
うどんをただただ美味しく食べた。
高尾山を朝7時30分過ぎに出発して、陣馬山へ午後2時前に到着。足が攣るアクシデントと闘いながら、何とか2回目のトレーニング山行が出来た。
3回目、2015年7月。白山出発1週間前の直前トレーニングに向けて、標高差のトレーニングが出来る、茨城県つくば市にある標高877メートル、百名山の中で1番標高の低い「筑波山」へ。実は筑波山は1度昨年8月の夏休みに登った事はあるのだが、そこで初めて足のスネをブヨに刺され、凄く腫れた思い出のある山である。今回は失敗から学び、虫対策は万全であったが、出だしから汗だくで暑さにやられて少々ばて気味に。かなりの体力を消耗して、まずは西側の男体山へ登頂、次に東側の女体山に登頂。筑波山は2つの峰を持っている。特に女体山からの眺めは、関東平野が一望出来て雄大で最高に気持ちが良い。ここに来て良かったと思える展望である。山頂から大きく息を吸い、とても満足な気持ち。
「これで、トレーニング登山は完了か。足の攣り、暑さ、標高差、ロングコースと色々あったが、それなりにこなしたなぁ。後は、白山行くのみ!行くぞ!」
下山して茶店で遅いお昼を食べる予定なので早々に下山開始。下山開始して暫く進むと、大きな岩が出てきたそれを降りて行かなくてはいけない。前日雨が降っていたので、滑らないように慎重に降りる。後少しで、この岩場も終わりになる時、悪い方の右足を大きな岩場に置いた瞬間滑った。咄嗟に足を捻らないように、ぶつけないように、右足を真っ直ぐ力強く突っ張った状態で滑った。尻もちもついて何とか下の岩場に落ちる前に留まった。
ー白山、K子、M男さん、瞬時に頭の中を駆け巡ったー
恐る恐る立ち上がってみる。立てた。歩けた。が、ジーンと膝の辺りが熱い感じがして、いつもと違うのは確かだ。早々に下山開始したので、午後1時前でまだ時間も早く、下山するつつじヶ丘のお土産屋さんが見え、天気も良かったので気持ち的には救いだった。ここからだと40分はかからず降りれる位置にいた。数歩歩いてみたが、歩くだけなら何とか行けそうだった。私は自力で下山する事にした。もう、右足は体重はかけられない。左足と両手を使い下山して行く。少し平坦な道に出た。余り右足の感覚がなくただ熱かった。私は綺麗な水色の紫陽花が咲いていたのを見つけ、写真を撮った。家に帰って山行記録をネット上にアップする為。
「これが、最後の登山になるかも知れない」
直感的に思い、紫陽花の写真を撮った。とても綺麗だった。
「最後の山行記録…」
これから先の道は、展望はなかったが、土の感触、山の匂い等確かめるようにゆっくり確実に歩いた。
最後のちょっと急な階段を降りて行き、ロープウェイ、バス停、お土産物屋さんのあるつつじヶ丘まで降りた。ホッとした。目に熱いものが込み上げた。そして後ろを振り返り、降りて来た山を見た。1時間30分、通常の3倍近く時間をかけて下山して来た。
お土産物屋さんはレストランも併設しているので、そこでざる蕎麦を注文した。
「これが登山で最後に食べる食事かな。下山後に食べる事ももうないか」
お蕎麦をゆっくりと食べた。又、目に熱いものが込み上げてきた。
「白山には行けない。K子の最後の登山なのに。M男さん、登山計画まで立てくれたのに。立山一緒に登った時のようにまた3人で登る機会はもうないのに」
「バカ、バカ、バカ」
「トレーニング登山に来なければ良かった」
自分を責める気持ち、最後の山かも、という思いが交互にでてくる。
この場から離れたくなかった。
この場を離れたら本当に私の登山は終わってしまう気がした。
ざる蕎麦を食べ終わり、ソフトクリームを外の席で、筑波山を見ながら食べた。
「見納めか」
「下山後に食べる最後のソフトクリームか」
私の右膝は、下山後食事が終わりバスに乗り込む時には、熱を帯び、ほとんど曲がらず、太くなり、歩く度に痛みを感じ、歩幅も少なく足が前に出ない状態になっていた。
家に帰り着きドアを開けた時、本当に安心して、ホッとして、何とか自力で下山し、家まで辿り着いた事に感謝した。熱い思いが込み上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます