山へのスタートボタン
毎年訪れる、5月の祝日。
2013年のゴールデンウィーク、私はカレンダー通りの4連休だ。いつも1日どこか友達と出掛ける位の連休。この年は、突然連休突入2日前にどこか行こうと取引先の仲の良いM子さんに言われ、先に4連休の2日目に行く事に決め、場所は後から探そうという事になった。
「何処、何処にしよう。車は場所に寄っては凄く混むし、行楽地は人混みで疲れるだけ」
二人でメールで互いの案を交換しあう。
「高尾山にハイキング」
「ボーリング、カラオケ、アミューズメント等楽しめる複合施設」
「スパ、温泉」
行くまでに疲れてしまうところは敢えて避けて、思いついたまま朝、M子さんにメールした。
するとM子さんから、「ハイキング良いですね。これから買い物ついでに本屋さんに行ってきます」と、メールがきた。M子さんと初めて出掛けたのが「スパ」だった。スパに行って、先ずマッサージを予約し、予約時間迄、幾つかあるお風呂を楽しむ。時間前に上がり館内着に着替えてマッサージをしてもらう。時には顔のマッサージの後に顔パックする事も。女性なので仕事で疲れたお顔のケアだ。そして、マッサージ後は休憩室でうたた寝をする。そして、またお風呂に入り、横になりのんびり過ごし、「このままここで寝れたら幸せだね〜」と言いつつ夕飯を食べて、私がM子さんを車で送って行くパターンが多かった。なので、また「のんびりスパにしよう」と、いうかと思ったので、「ハイキング」は、ちょっと意外だった。「そうか、ハイキングに興味を示したか」私は、高尾山にはもちろん、右膝を怪我して以来、「ハイキング」には1度も行った事がなかったし、行こうと思った事も無かった。だが、今回何故か脳裏に「ハイキング」の文字が浮かんだ。夜、M子さんからメールがくる事になっていたので、私はネットで「高尾山、ゴールデンウィーク」で検索してみた。すると、高尾山口の駅から人が溢れている画像が沢山アップされていた。「混むなぁ~」と思いつつ高尾山迄のアクセス、コースを調べてみる。駅降りてから直ぐに歩き始められる、東京都心の山なので登山客が多く、ゴールデンウィークは尚更のようだ。お山目指して来られる方の人数の多さにビックリした。「混むかぁ~、どうしようハイキングは諦めるかな」
夜、M子さんからメールがきた。関東近郊の山の本を買ってきて見てたところ、やはりM子さんも、「高尾山は混む」と思ったらしく、その先の東京は青梅市にある「御岳山はどうですか?高尾山の先で、駅からバス、ケーブルカー乗り継いで行くけど高尾山よりは人混み解消されるのでは」とのメール内容で、私もまたテンション上がってきて「そこにしよう」と即メールを返信し、交通機関、コース等をネットで調べ、M子さんの買った本にもMAPあるとの事でそれを当日持参してもらう事にした。待ち合わせ場所は、新宿駅のホリデー快速おくたまの先頭車両のホームに10:00。一分前になってもホームに姿はない。「間に合いそうもないので途中のホームから掛け乗りますの、乗って下さい」M子さんからのLINEが来た。「もし間に合わなくて乗っていなかったらどうしよう」乗るかどうかためらい、1度乗ったが、また降りてホームを見渡す。発車の合図でためらいながらも乗車しようと足を電車の中に1歩踏み入れた時後ろから腕を掴まれた。と、同時に振り返ると、M子さんだった。「良かった。乗ってなかったらどうしようかと思った。」「ごめん。ごめん。二度寝してしまって」やれやれ。二度寝した割には、ちゃんとハイキングらしい登山者の格好をしている。定番のチェックのシャツに、ストレッチの効いたパンツにザック、トレッキングシューズ。私はと言えば、何せハイキングをした事がないので、取り敢えず動きやすいストレッチの効いたパンツ、ロングTシャツ、肩掛けバック、ワークブーツ。ザックも持っておらず、それに適した靴も持っていなかった。「まぁ、良いか」私の中では、楽しく道を歩くイメージだった。
やはり、ゴールデンウィークの電車、満員で座る事が出来ず、御嶽駅までずっと立ちっぱなしだった。が、休みの開放感と、久し振りに会うM子さんとの会話、初のハイキング、時間が過ぎるのは早く、普通なら立ちっぱなしで疲れてしまうのだが、1時間ちょっとの乗車時間、余り立ち疲れを感じず駅迄着いた。駅に着いたらもう11:30過ぎ。何か食べてから行こうと言う事になり、駅の側にあったお蕎麦屋さんへ行く事にした。中に入ったら凄く混んでいて、全て座敷の席は全部ぎっしり埋まっていた。40分近く待ってやっと席に案内された時には12:30過ぎ。天ざる蕎麦と鴨南蛮蕎麦を注文し、お蕎麦屋さんを出た頃には13:00過ぎ。それからバスでケーブルカー乗り場のある滝本駅へ移動。滝本駅からケーブルカーに乗って御岳山駅まで。やっとハイキング開始。今から思えば、「こんな出だしの遅いスケジュールはあり得ない」
初めは平坦な道から始まり、「ロックガーデン」方面へ向かって進むとといよいよ道が険しくなり、大きな石を下りるのに悪戦苦闘しながら降りて「七代の滝」へ到着。かなりではなく、大分疲れたので、滝を見ながら暫し休憩タイム。久し振りにかなりハードな動きで、動いた後の心地良い疲れと滝の水が涼しさをもたらし、気分が晴れ晴れとした。「来て良かった」と素直に思った。滝の前で、両手をあげてポーズをとり、M子さんと互いに記念写真を撮りあった。
私は右膝を怪我して以来、ハイキングに行こうなどと考えたことも無く、だけど来てみたら、普段の日常では知り得ない、知らない世界に入ったみたいで楽しくなってきた。
「木々、花、尾根道、清流沿いの道、飛び石の階段…」全てがとても新鮮で、特に滝の側は、空気が美味しく、冷たい。「空気が美味しいなんて思ったの初めてだなぁ」先の見えない景色に出会い、いろんな道が待っている。
出だしの遅いハイキングは、3時間半位のコースタイムだったので、帰りのケーブルカー、バスの時間も確認せず、本当に行き当たりバッタリ的な感じではあったが、何とか交通機関も間に合い、最終的には全て順調で、とて素敵な1日となった。
ただ、両足がかなり激しい筋肉痛なっていた。ロボットのようにぎこちないない足の動き。
「筋肉痛が心地良い」何故か誇らしい気分だった。
帰りは、猛烈にお腹が空いた。言わば、腹ペコ状態。
「お腹空いた!」
動いて、お腹が空いて、そして食べる。
自分では、「こんなに動くとお腹が空くものなのか」って事に、ちょっと感度した。小学、中学の運動部の部活時代以来忘れてい事だった。
お互い乗り継ぎ駅の新宿駅で途中下車し、夕飯を食べて帰る事にした。ベトナム料理のフォーを食べ、冷たいお茶を飲み、幸せを感じた。夕飯食べ終わり、またロボットのような動きで、新宿駅に向かい解散した。
帰りの電車の中で、今日の事を思い出していた。今は下半身がかなり動きの悪い錆びついたロボットみたいで、明日がより一層ひどくなっているのは想像出来た。色んな事を「駄目」だと諦めていたが、意外と自分の足でも「行けるんだなぁ」と思った。軽く平坦な道をのんびり歩くイメージ来て、アップダウンあり、水辺を歩き、岩を下れた。勿論、日頃から悪い右膝をかばう癖がついていて、登る時、特に下りは最善の注意を右膝に払いながら下りた。凄く注意すれば私でもハイキング、登山、出来るという自分の領域が広がった事を感じた。自然の中から現実に戻り、身体はかなりお疲れ状態であるが、心は晴れ晴れとしていた。
状況は違うけど、昨年K子と行った、万里の長城、中国での歩きに歩かせられた旅が終わった時に感じた、「達成感」「充実感」「歩かないと物足りない」が蘇ってきた。
限りある時間を余す事なく過ごす事は、密度が濃く、その分心の充実感が増す事を実感した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます