思い起こせばあの時から
家から会社、会社から家の往復。
ベルトコンベアのように同じ場所を行き来する。
スポーツを諦めてから二十数年。
スポーツをしていた時は、身体中から力が湧いていた顔の表情も生き生きし、自分に自身が持て、心も弾んでいた…気がする。汗をかき全身で息をする。何とも言えない心地良さ。
そういう事から、だいぶ離れてしまい、ただ年月だけが過ぎてしまった。膝の負担になるといけないので、太らないように気を使い、毎日体重計にのり体重の変化に気をつけながら、軽いストレッチをたまにする。太らず、服のサイズも変わらず体型を維持し続けている。ちょっとでも体重が増えると、身体が重くなり、膝に負担がかかるのが分かる。凄く繊細な私の右膝。
単調な日々の中、ちょっとしたイベントはある。お食事会、旅行、温泉、テーマパーク。
旅行。気心知れた友との旅行は、無論楽しく良い思い出である。一番強く残っている旅は、2012年8月の中国の世界遺産巡り。何故か突然、「万里の長城に行きたい!」と思った。その事を会話の流れの中で会社の同僚のK子に言ったら、「私も行きたい!」と意気投合し、3泊4日で「万里の長城」がコースに組まれていて、他にも故宮博物院等世界遺産四つ巡る全行程観光、食事付き、日にち限定であるが、旅行会社行特別企画というのを私が見つけた。
どの旅行会社のどのプランよりも破格の金額だった。中国語は全く分からず、限りある時間の中での旅行なので、時間を無駄にせず行けるツアーを探していて見つけたのだ。我ながら「でかした!」と、思った。だが、日にち限定、人数制限もあるので、取り敢えず、どうしても行きたい「万里の長城」がコースに入ってるのを再度確認し、K子が直ぐにその旅行会社に電話をして予約がとれた。「良かったぁ~」ホッとした。これで安心して仕事が出来る。
数日後、K子の元に旅行会社から諸々の書類と、旅程が送られて来たとの事で会社に持ってきて、昼休みにそれをじっくり二人で見た。「これは…」
そして、旅程表では見ていたが実際の旅が始まってみると…
一日目、北京空港到着後、場所名忘れてしまったが、二箇所位行って、人力車に乗ったり、実際生活をしている家にお邪魔して中を拝見させてもらったり、後は覚えているのは歩いた、歩いた。ホテルに午後10時頃戻る。
二日目、朝8時ロビー集合。「万里の長城」「頤和園」「雑技団」夜10時過ぎホテルに戻る。
三日目、朝8時ロビー集合。「天安門広場」「故宮」「夜、マッサージ」夜8時頃ホテルに戻る。
四日目、朝8時ロビー集合。「北京動物園」日本へ帰る。
初日から、物凄く歩き、ハイキングでもないのに、「こんなに歩く旅行のツアーはあるだろうか」明日の日程も朝からビッシリ。「明日以降の日程はこなせるのだろうか。不安がよぎる」K子も同じ事を考えていた。初日、ホテルに戻り、急いでお風呂に入り、ベッドに入るや否や、私の記憶はなくなった。朝6時起床、六時三十分頃、朝食バイキング。今日は「万里の長城」も行くし、昨日よりも歩く事間違いないので、朝食はしっかりとり体調を備える。まるでアスリートのようだ。
「万里の長城」歩きっぱなし。自分の足で歩いた事は本当に嬉しかった。念願叶った瞬間だった。私の歩いた道は長い万里の長城からすると、本当に豆粒位の距離に過ぎない。だけどそれでも「万里の長城」を歩いた。昨日も大分歩かされたせいか、歩きっぱなしなのに、段々身体が慣れてきた。良く良く考えたら、中国は領土が広い、なので世界遺産と言われている場所も行ってみると広い。だから歩く距離も長くなる。歩きに歩くを重ね、二日目、三日目と世界遺産を足で巡る。
旅が終わり、先ず一言で感想を…と言われると、「良く歩いた。とにかく歩いた」と言うだろう。
二、三時間の歩きっぱなしというケースがほとんど。余り休憩時間を与えられず、次の場所に移動するにも、広いので移動に時間がかかるため、旅程をこなす為に歩き続ける事になるのだ。
初日からあんなに歩いて疲れ果てたので、これから先の旅程にとても不安があった。でも、二日目の朝になったら、目覚めが良くて、疲れて休みたいと思う時はあったが、15名程の団体ツアーだったので、 「皆に迷惑をかけないように」という気持ちも有り、足が前に進んだ。毎朝、目覚めが良く、三日目には体調絶好調だった。
「今日も、歩くぞ〜」
K子と二人、凄い気合が入る。こんなに気合の入る旅は初めてだった。
日本に戻り、翌日から会社。K子と朝一会社で交わした言葉は、「歩かないと、物足りないね」だった。今日から、いつも通りの日常だ。
必要に迫られ歩き、歩かされた、体力を使うから、食事はしっかりとり、夜は疲れ果てて、物凄く熟睡。マラソンのような旅だった。旅の始まりから帰国するまで、余分な、暇な時間はなく、不安だった過密スケジュールをコナシきった達成感。久々に充実した時間を過ごせた。心が凄く満たされ、何とも言えない走りきった感のある旅だった。「万里の長城」に行きたかった思いから始まった旅は、最後は歩く事が楽しくなっていた。たった3泊4日の出来事が、自分を変化させた。自分でも意外だった。
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