第17話 嗚呼、異世界大団円
とりあえずこの鞭を外さねえとな。
「くの野郎!」
「ぬう!」
い、意外と力が強いな。こっちは鎧込みで相当重いはずなのに。無駄に強いモブキャラは大嫌いだ。左腕よ、右腕みたいにとんがれ! ……ダメかくそ!
「そら!」
「うぼっ⁉」
急に鞭をたわませつんのめったところを、強く振り下ろされて俺はこけた。しかし咄嗟に受け身をとって頭は無事だ、ざまあ―
「ぎいい!」
「あらー」
「へっへっへ! ざまあみやがれ!」
鞭が外れたと同時に、宙に浮く。またキモイモムシの突進に吹っ飛ばされたぜ。連携、じゃねえな、目の端にイモムシの突進を躱すお頭がみえた。俺の背後不注意か。踏み潰されなくて助かった、あの重量だと受け身だなんだと言う前に頭が潰れちまう。
「っと!」
今度は少ない回転で受け身をとって起き上がる。状況確認、右前方にお頭、左のクソ民家に突っ込んでるキモイモムシ。
「そうら!」
「おっと」
二度も同じ手を食うかよ。鞭だろうがなんだろうが射程距離にいなきゃいいんだろ。
「ちぇい!」
「あぶ⁉」
砂! 目つぶし⁉ 器用な真似―足が浮く! 足を取られたんだ、巻き付いた鞭が引っ張られてバランスが崩れる。後頭部を……よし受け身間に合った! 足のあたりに右手の刃をひたすら振り回す。……手ごたえあり、鞭を切ったぞ足は自由だ。
引っ張られた方とは逆にとりあえず走る。目を拭って、はっきりとしなくてもいい、キモイモムシの位置だけは確認しないと。……よっしゃ! まあだクソ民家に突っ込んでうぞうぞしてやがる。
「……ふう」
のんびりとはいかないが、丁寧に目を拭う。キモイモムシは今はいい、お頭が先だ。先っちょが切れたとはいえ、まだ鞭のリーチは圧倒的だ。向こうもそいつは承知で俺を睨みながら待ち構えてる。突っ込めばカウンターで先手をとられちまうし、さてどうするか。
「いけ!」
「「キイイ!」」
「⁉ な、なんだ⁉」
鳥? いや追剥ぎコンドルだ! アインめ、やりやがる。
「師匠! 今だよ!」
「お、おう!」
俺はお頭に突っ込む。当人はコンドル共に頭を突っつかれて、攻撃どころじゃねえ。左で腹に一発、そのままアッパーカットでKO。う~ん、すっごく気持ちいい。
お頭はだらしなくぶっ倒れた。
「しゃあ!」
残るはキモイモムシだけだ!
俺は身構えて動きを探る。クソ民家からようやく抜け出したキモイモムシは気色悪い体液を滴らせながら、あのおぞましい目で俺をじっと見つめて……。
「ぎいいいいいい!」
逃げ出した。
あっという間だ、森に向けて一直線。倒れる木々がすぐに他の木の陰になって見えなくなって、奥へ奥へと消えていった。
迷ったのはほんの少しの間だけだ、逃げるんなら別に追わねえ。アインだってそう言うだろう。ここで暴れるよりよっぽどいいし、追ってまでどうこうしねえ。
「に、逃げたぞ!」
「やったぞ!」
「おい! 追いかけろ!」
「そうだぶっ殺せ」
何よりこいつらの村だしな。見ろよ危機が去ったとありゃあ沸き立ちやがって。あれ、俺にえっらそうに命令してるあの姿を見ると、お前をぶっ殺したくなるぜ。ま、そんな価値もねえがな。
「こいつ山賊の頭だぞ!」
「野郎!」
「死ね!」
「や、やめてくれえ!」
うわ、倒れてるお頭をリンチしはじめやがった。止めようかな……でも、そもそも先に手を出したのは盗賊たちだし、お頭はまあ責任あるよな。キモイモムシだって絶対善いことに使わなかっただろうし。子分に逃げられたのは少し可愛そうだけど、俺も結構やられたしま、お互いさまってことで。
「師匠!」
「おう」
そんなことよりアインだ。こいつには素直に感謝してる、お頭もこいつとコンドルがいなきゃもっと手こずってただろう。なに勝てない? そこまで言ってないぞ、ちゃんとその場合の策もあるんだ。嘘じゃないぞ。
「助かったぜ」
「あ、ありがとう」
いい笑顔だ。照れと誇らしさが混じってとってもほっこりできる、そっちの気はないけどクラッと来たぜ。
さて、アインも無事だし、この気色悪い体液を落としたいからすぐ戻って風呂に入りたいが、アインはそうさせないだろうな。絶対クソ村の連中を助けるように言うはずだ。
それくらいはしてやろう、片付けくらいはな。何しろ今の俺は機嫌が良い、鎧の変形っていう下剋上への希望が見えたし、クソから80000いただくためにももう少し恩を売っといた方がすんなりいく。ごねたら殴るぜ。
「まずは怪我人を運ぶか」
「え?」
「そうしたいんだろ? アイン?」
「! うん!」
まったくいい笑顔しやがって。……ちょ、ちょっとだけ頭くしゃってしてやろうかな? ほら、よくあるじゃん外国映画とかで。兄貴や親父や師匠が弟子にやるやつ、こう髪の毛をワシワシ。
「あーアイン?」
「?」
俺はアインの頭に手を伸ばして、くしゃっと撫でる。
最初はびっくりして目を丸くしてたアインも、気持ちよさそうに目を閉じてされるまんまに任せた。弟って、こんな感じかな? いや、きっとこんないい感じなのは弟でもそうそういないぞ。
「疫病神があ!」
その手の上に鍬の刃が降ってきた。
鎧の小手はなんともない。
だが、重量には逆らえずアインの脳天に、鍬と一緒にめり込むのは防ぐことができなかった。
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