第16話 嗚呼、異世界変形鎧
おお、みたまえ。我が右上腕(の鎧)が両刃のナイフと化している。今頃になって秘められた機能が目覚めやがって。
「ぎいい!」
「しゃっ!」
キモイモムシの突進を躱しざま、右を突き立てる。ぐっさり刺さった刃が、突進の勢いに乗じて皮を切り裂いていく。そうそうこういう格好いいのだよ、こういうのがあってこそ異世界に―
「ぎいいいいいい!」
「あららー⁉」
途中で刃が引っかかってそのまま引っ張られる! くそ! 何とか抜かないと―
「ぎいいいい!」
「ぶええええええ⁉ おえええええええ⁉」
体液があああああああ! 体液が俺が切ったところからどばーって―うええええ! 臭え&生温かくて気持ち悪いいいいい!
「ぐえっ―」
衝撃。キモイモムシがどっかにぶつかったらしく、振動と風の感触がなくなった。
「ぐ……」
俺は足でキモイモムシの気色悪い肌を押して、どうにか刃を引き抜いた。うわ、なんか塊みたいのがくっついてやがる。地面にぶっさして、どうにか拭う。それよりひどい匂いだ、一応毒消し草を飲んで―
「ぎっ!」
「‼」
浮いた。
背中だ、背中に一撃もらった。ダメージはねえが、衝撃は吸収できねえ。頭を守って受け身を取るんだ。
地べたをたっぷり10回は転がって、ようやく起き上がる。まずはなによりも。
「うえええええええええ!」
吐かないのは無理っす! 無理! ゲロに緑色が混じっているのが実に嫌だぜ。飲んじまってる。
背中に感じる突進の風圧を感じて躱し、もう一回吐く。2、3度深呼吸して、よし、治った。ボディブローの練習で嫌って程経験したのが活きたな。あれ辛いんだぞ?
「ふう」
さてさて、クソの家に突っ込んで蠢いてるキモイモムシから目を離さないようにしつつ実験だ。……だめだ、動かねえ。右腕の刃はそのままに、左腕も尖らせようとしたがピクリともしやがらねえ。ま、予想はしてたがな、大体こういうパターンだ。
キモイモムシがクソの家を崩しながら頭を出して叫ぶ。狙うなら失血死だな、このリーチじゃ決定打になりそうもないし、傷口に近づくとまたあの液を浴びちまう。あ、毒消し草。『果てない小袋』から取り出してむしゃむしゃ、う~んケミカルなテイストだぜ。
キモイモムシがキモ口から酸をまき散らしてこっちに向かってくる。よしよしさっきの傷口から体液が流れたまんまだ。もう5、6カ所も切っちまえばそう時間はかからないだろう。攻撃は右手一本に絞る。
アイン、ちゃんと逃げろよ? 悪いが守りながら戦える程余裕はねえぜ。
「このガキ‼」
「んな⁉」
鞭が右腕に!
たどっていくと元にはひげのお頭。すっかり忘れてたぜ。部下は周りに見えねえし、お頭も頭から血が流れてやがる。背水の陣ってやつだな。
「俺のだ! 手え出すんじゃねえ!」
おうおうここまで来てその執念には頭が下がるよ。
けどな、生憎今の俺はそんなに優しくねえぜ?
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