第15話 嗚呼、異世界打撃無効

 地獄絵図。ってやつかな。

 どうにか村に着いた俺は思わずつぶやいた。

 暴れ狂うキモイモムシに家も人間もぺちゃんこであちこち火事になってやがる。槍やら鍬やらが何本か刺さってるところを見ると多少は抵抗したみたいだけど、怒らせただけだったな。


「お頭! 逃げやしょう! もうほとんど残ってないすよ⁉」

「うるせえ!」


 山賊一行は殺されるか逃げるか、頭に血が昇って鞭を振り回してるお頭にくっついてるかで数えるくらいしかいない。アインはどこだ? ええいクソ村人どもが喚きながら逃げ惑って邪魔だぜ。


「アイン! アイン!」

「師匠! ここ!」

「おお! って……」


 少し離れたところで、白目向いてるクソ村人Aを引きずってやがるアインがいた。助けてるんだよなあ、全く。予想はしてたけど逃げてて欲しかったよ師匠は。


「ぎいい!」

「! やべ!」


 キモイモムシがアインの方に向かってる!


「アイン! 逃げろ! そいつを置い―てはしないよなお前! できるだけ急げ!」

「う、うん! あー」

「邪魔だガキ‼」


 ‼ あのクソ村人B……逃げる途中アインを突き飛ばしやがった! 案の定あいつは起き上がってクソ村人Aを抱え起こそうとして逃げねえ!


「クソ! あとで覚えてろよ!」


 もちろんクソ……もう村人もいらねえBでいい。に、言った言葉だぜ。俺はキモイモムシに潰れた家の壁石を放り投げた。

 壁石はキモイモムシの体節の真ん中あたりにめり込んで、そのままずりずりと落ちる。指をふくらはぎの肌に当てて、そのまま下に降ろしていくのを想像してくれればいい。やっぱり弾力性のある皮で打撃は通じにくそうだ、重量で動きは止めたがダメージはありそうもない。

 キモイモムシが、俺に眼を向ける。うひい、眼もそうだけど、あの口のうぞうぞがマジでやばい! 


「ぎいいいいっ!」 

「っち!」


 突っ込んできた。受け止めるのは……生理的に無理! 躱しざま、一発ジャブを頭の部位に打ち込む。ダメだ、ゴムボールを殴ってるみたいでてんで手ごたえがねえ。野郎はそのまま何十メートルも突進し続け、家に突っ込んで半壊にしてようやく立ち止まった。家から頭を引っこ抜いて、ぎょろぎょろ眼を動かし、俺を見つけるとまた突っ込んできた。

 どうする。躱すのはそう難しくないが、こっちにも決定打がない。刃物を探すか? いや、訓練したこともない俺が使って通用するとは思えねえ。慣れない動作で隙を作るのが落ちだ。そうだ、お頭山賊の鞭……馬鹿、余計に扱えねえよ! あとは火とか毒……。火か! 油を被せりゃ―っと、避けないとやばい。


「ふんぬ!」


 皮一枚、嫌な風圧を顔に感じた。機関車並みの重量がこの鎧の防御力に不安はねえが、いかんせん頭は無防備だ。ああいう、でかいのの被弾は避けたい。鎧は無事でも、衝撃で頭が弾ける可能性だって大有りだ。体力だって無限じゃねえ、動けなくなりゃおしまいだ。

 火責め……山賊は論外だしクソどもはあてに出来ねえ、アインは危険な目に遭わせたくないし、そもそも油はどこかにあるのか? 火種はあるのによ。


「武器がありゃあなあ……」


 そうつぶやいた時だ。

 俺の右手……いや、正確にはそこの鎧が細かく震えだした。


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る