第13話  嗚呼、異世界キモイモムシ

 しかし歩きにくい! 登山が趣味ってやつの気が知れないね。山の中をアインと進みながらそんなことを考える。コンドルは上空で偵察だ。


「山賊ってどれくらいいるんだ?」


「えっと……20人くらい?」


 結構多いな。


「最近住み着いたんだ。僕は怖くて遠くからしかみたことない」


「おうおうそれでいい、危ないことには近寄らないのが良い子のお約束だ」


「ねえ、師匠?」


「ん?」


「僕も師匠みたいに強くなれる?」


「おうよ、けど一つ大事なことがあるぞ。なんで強くなりたいのか、これがないとだめだ。ムカつく奴をぶちのめしたいでもいい、格好いいからでもいい。とにかく一本譲れない理由を持つんだ」


「理由……」


「それがありゃ、なんとかやっていけるもんだ。流石に俺みたいな超天才&神に愛されてるレベルでレア装備を手に入れられたスーパーマンと同じってわけにはいかないけどな」


 そんな話は、藪の中から現れた乱入者で中断される。

 追剥ぎコンドルから『小袋』を取り戻そうと躍起になってたときにあった、ゴブリンだ。

 俺達を見て、ピンと耳を立てて警戒するように少しづつ後ずさる。


「し、師匠」


「心配するな」


 攻撃してくるって態度じゃねえ。むしろ逃げようとしてるからこのまま刺激しないでおこう。戦ってもしょうがない。

 そう思ったが、俺はゴブリンの異変に気付いた。体中傷だらけなんだ。いや、野生の生き物なら変じゃない、天敵だらけだろうし、そこら辺の草むら通るだけで結構切り傷とかできるしな。

 こいつのは、鞭だ。それも一度二度のじゃない、何回もやられて皮膚が硬くなってる。さっきは気づかなかったがこいつは……。

 ゴブリンは出てきた藪に素早く飛び込むと、遠くなっていく草の摺れる音と一緒に逃げていく。


「アイン、鳥にあいつを追わせられるか?」


「え?」


「どっちだ? 早く!」


「あ、で、出来る出来る!」


 アインが口笛を吹くと、2羽が降りてきて樹の間を低空飛行していく。

 それを追いながら、俺はアインの隠れた才能に舌を巻いた。こいつは『魔物使い(テイマー)』にでもなりゃいいとこいくんじゃなかろうか。




「ビンゴ」


「あれって……」


 10分も2羽の後を追うと、急にコンドルたちは空へ飛びあがった。

 同時に森が開け、広場が顔を出した。元からのにしては、木が変なところで途切れすぎてる。明らかに人為的にできたやつだ。地面は踏み固められ、ご丁寧に雨よけの幕まで引かれてる。例の山賊だな。俺たちは息をひそめてゆっくりと近づいていく……ああ、もうこの鎧は!

 広場では、どうあがいても悪い事してますよな顔の連中がごろごろいて、飯を食ったり、だべったり、喧嘩したり山賊の日常をご丁寧に実演してくれていた。


「この役立たずが!」


「……!」


 無論、胸糞悪い日常もだ。

 隅っこで、大柄で髭面の山賊が、さっきのゴブリンを鞭打っている。古傷やかさぶたが開いて血が飛び散り、周りの地面を赤く染める。亀のように丸まったゴブリンの脇腹に、今度は蹴りを入れ始めた。周りの山賊は、笑って囃すばっかりだ。


「ひ、ひどい……」


 やっぱりな。やってることはアインと変わらねえ、仕事の手伝いにモンスターを利用してるってこった。憂さ晴らしも兼ねてってのが決定的な違いだがな。クソ村と言い、こいつらといい引かれあってるのか? 笑えねえ。

 よく観りゃ、あちこちに似たようなゴブリンがいやがる。あの髭面は『魔物使い(サモナー)』崩れか。


「し、師匠」


「ああ」


 出払ってるのか、幸い10人ほどしかいねえ、これなら俺一人で十分だぜ。嫌がらせに偵察&報告だけしてクソ村を不安がらせて金も奪おうと思ってたが、計画変更だ。


「ここにいろよ? 俺がいくから」


「う、うん」


 俺は入念に準備体操をする。あったりまえじゃん、柔軟は大事なんだぞ。走り出したら肉離れなんて目も当てられない。


「よし」


 準備完了。

 まずは誰から行くか―


「お頭! ただいま戻りやした!」


「おう! 遅えぞ!」


 言っておくが、残りの山賊が戻ってきたから止めたんじゃないぞ。

 あいつらが縄付けて引き連れてるあれのせいだ。

 電車一両分くらいの芋虫、肌色で、100本はありそうな指みてえな足が蠢いてぞわぞわしてる。顔には目がうじゃうじゃあって、どれもぎょろぎょろ四方八方回ってやがる。イソギンチャクみてえな口から垂れてるあの液はなに? 垂らさなきゃいけない理由でもあるの⁉ 何よりあの質感が無理! さわったらぬめっとしてるのに柔らかくて凹むような……とにかく無理! 無理!


 


 


 

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