第11話 嗚呼、異世界人種問題

 そこに入るとまず、じめっとした空気が俺を包んだ。追剥ぎコンドルを前で待たせてアベル村を進む。

 全体的に灰色な寒村の村人どもは、なんでもないという顔をしながら、俺を警戒するのを忘れずひそひそ話。まさに田舎の閉鎖社会、どこでも変わらねえな。

 アインのやつが、俺にくっついてくる。ううむ、邪魔臭いがあんまり素っ気なくするのもな……これも有名税と割り切ろう。


 比較的立派な(あくまで周りと比較して)村長の家で、依頼主の村長と会う。こういう村にぴったりの、ザ・村長といった感じの陰気な爺だ。茶も出さないで、ギルドの認可証を確認してる。

 

「……確かに」


「おう、で、どこよ?」


「その前に……」


 村長がアインを睨む。

 アインは息を呑みつつ、俺にしがみついて必死に村長を睨み返した。鎧を通して震えが伝わってくる。言葉遣いが戻ってるな。


「何故ここにいる?」


「き、来たくて来たんじゃねえ。師匠が来たから……」


「もう一回」


「え? ……来たくて来たんじゃ―」


「そのあと」


「し、師匠が……」


「そこだけさらにもう一回」


「師匠」


 ああ……師匠……甘美な響きだ。ボス、親分、兄貴もいいけど師匠がこう一番呼ばれて嬉しいよな。


「あんた、アインの師匠かね」


「ん? ま、まあね」


「ふん……」


 村長が軽蔑した様に鼻を鳴らす。認可証をしまってからは、こっちを見ようともしなかった。


「来たならしかたない。裏が現場だ、村の者は忙しくて手が貸せんからな」


 そういって、机に座り別の書類に眼を通し始める。話はこれで終わりということらしい。

 なんだその態度、非常にムカつく。さっさと終わらせるとしよう。


「お前この村となんかあったの?」


 村長の家を出て現場に向かいながら、アインに聞く。それ違い、民家から覗く村人共の顔はアインに特別厳しいように見えた、顔見知りにしては険悪だな。

 アインは少しためらって話し始めた。


「俺前ここに住んでたんだ。父ちゃんと」


「ふんふん」


「けど父ちゃん死んでから畑取られちゃって、しばらくしてお金盗んだって追放された」


「盗んでんじゃん実際」


「あ、あれは追放されてから始めたんだよ盗みなんかしてない。……俺、異界人だからどこにもいけないし」


「ん? お前向こうから来たのか?」


「ううん、母ちゃんがそうだった」


 異世界(要は俺のいた元の世界)から来た俺達みたいな人間は、『異界人』って呼ばれてる。

 歴史は長いが、そう頻度が多いわけじゃないらしい。俺は素晴らしい人間性のおかげで(女たちのおかげじゃないぞ、勘違いするな)嫌な思いもしたことないが、成程こういうのもそりゃあるわな。しかし、その子供だからって……ますますムカつくぜ。

 さっさと別の村にでもいけばいいじゃんかとも思ったけど、俺が事情を知らないだけみたいだ。


「心配するな弟子よ」


 俺は暗い過去を思い出してしょげているアインの背中を叩く。

 あ、倒れた。


「うう……」


「す、すまん。だが聞け、俺も『異界人』だ」


「え?」


「今や同胞を集め国を造ろうとしているところだ。俺がトップだからお前はNO2だ!」


「ほ、本当に?」


「ああ、だからさっさとこんな辛気臭い村とはおさらばだ」


「お、おー!」


 嘘つくなって?

 嘘じゃないさ、あいつらに国を造らせてそれをのっとるんだから、何も間違ってないのだ。


 そうこうするうちに、その土砂崩れの現場につく。

 なるほど結構崩れてるな、家位の大きさはあって片付けようとすると手間だ。ちらと後ろを見ると、クソ村人が何人かこっちを覗き見てやがる。何が忙しいだクソ死にぞこない爺め。


「じゃ、早速―」


「あー、いいいい見てろ見てろ」


「え?」


 アインの答えを待つまでもなく、俺は背丈くらいもある岩を持ち上げて遠くの森へ投げ飛ばした。気持ちいい~鎧のおかげで掃き掃除みたいな感覚で岩や土砂を片付けられるぜ。うん、戦闘だけでなく俺は色んな使い方を考えられるのが偉いな。

 お、アインくんその顔良いぞ。呆気にとられた顔。それでこそ振るいがいもあるというものだ。


「よし」


「す、すごい!」


 10分もしないですっかり片付いた跡を見て、アインが感動の声をあげる。


「そうだろうそうだろう」


 本当なら防止整備とかもしないと危ないんだろうけど、俺はそんな依頼受けてないんだもんね。むしろ歯止めがなくなって、片付け前より危ないかもな。げっへっへ。


「いやはや御見それしました」


 報酬を受け取りに戻った村長の家では、打って変わって媚びる笑みを浮かべて、茶と菓子を出すクソ村長が出迎えた。いや村長なんてつけなくていいな、クソに訂正しておこう。

 皆さんにいいことを教えてあげよう、ムカつく奴が改心して感動するのは嘘じゃない。けどクソが改心することはない、損得考えて掌返してるだけで余計ムカつくだけなのだ。ここを間違ってはいけない。


「ご無礼を働き誠に―」


「報酬」


「あ、これは失礼を―」


「報酬」


 クソが笑みを引きつらせつつ、袋を出した。しぶったら一発殴ってやろうと思ったのに残念だ。ち、ちゃんと30000ありやがる。難癖付けようと思ったのに。それとあの量で30000は少ねえからな。

 まあいい、さっさと出てって今後は受けなきゃいいだけど。グッバイクソ村&クソ野郎。


「ままま、お食事も用意してますので……」


 腰を浮かした俺をクソが慌てて引き留めようとする。


「アインの分もあるんだよな」


「は? ……あ、も、もちろんです」


 用意してやがらなかったな。

 本当にムカつく。こういう野郎はぜひとも苦しんで死んでほしい。


「いくぞ」


「うん」


「お、お待ちを!」


 クソが俺達の前に回って入口を塞ぎ、這いつくばって頭を下げる。

 頭を下げられない奴もあれだが、ぽんぽん簡単に下げる野郎はもっとあれだ。


「実は盗賊が出ていまして……貴方様の力を見込んで、どうか退治を!」


「やだぽーん」


 鼻くそをほじりながら断ってやるぜ。

 クソの体が僅かに揺れる、『頭を下げてるのに』とか絶対思ってやがるよな。ムカつくのを通り越して殺してやりてえぜ。


「報酬は弾みます! どうか! どうか!」


「いくらくれんの?」


「おお! 3……40000お支払いします!」


「俺の国には学校もあってな。お前と同じ境遇のやつがいっぱいいるんだ」


「え? そ、そうなんだ」


「50000が限界です! 貧しい暮らしで奪われもして…… どうか! どうか!」


 さて、貧しい村の限界はどこまででしょうか? 一気に10000も違いが出る予算の編纂を俺と見ていきましょうね。




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る