第8話 嗚呼、異世界近接遭遇

 俺は追剥コンドルを追って森の中を走る。……山道はどうしてこんなにデコボコ歩きづらいんだ! 道路を見習え道路を! 


「ギュア⁉」


 藪を抜けると、目の前にやっせっぽちのゴブリンが現れた。

 俺は華麗に飛び越えようとするも、着地に失敗しケツを打った。痛くはないけど実に屈辱的だ。


「ギュ……」


 こらゴブリン、その目はなんだ! 憐れむんじゃない!


「キー」


「あ、くそ!」


 クソ鳥が鳴く。あれは確実に俺を馬鹿にしてやがる声だ。脳みそが沸騰してきたぜこの野郎!


「どっせい!」


「クア⁉」


「ほりゃほりゃほりゃ!」


 どうだ! 魔法なんか使えなくても、石ころをなげるだけで遠距離はカバーできるんだ。コントロールの難は、数でカバー。落として焼き鳥にしてやる。


「クア!」


「キー!」


「あ、こら!」


 石を切らした隙を見て、逃げやがった。むかつく。石、もっと手ごろにたくさん転がっておけ。


「待ちやがれえええ!」

 

 クソゴブリンを放置して、俺は先に進む。ありがたく思えよこの野郎、この場は見逃してやる。俺はクソ鳥を見逃さないように、できるだけ先を急いだ。

 とはいえ、そこからゴールまではすぐだった。2羽が入り込んだのは、大きな岩肌に開いた、洞窟だった。馬鹿め、もう逃げきれないぞ。

 早速突っ込もうとした俺の耳に、妙なものが聞こえてきた。


「よーしよし」


 人間の声? まさか、飼われてんのかあいつら? 少し迷ったが、警戒しつつ俺は洞窟を進む。勿論頭は完全防御だ。飼われてようが、どうだろうが行くしかない。『果てしない小袋』は必要だ。

 入ってすぐ妙に明るいのに気づく、地面も、山道を進んできたせいもあるが妙にすっきり整備されている感じだ。よく人が通ってるのか?

 少しいくと、この明るさは奥から差し込む光のおかげだときづいた。時々揺れてるってことは、火だな。盗賊か? だったら上等、心置きなくぶちのめし&回収&お小遣い稼ぎだ。


「お、『果てしない小袋』じゃないか! 拾いもんだぜこれは! よし、今日は豪華にいくか!」


 洞窟の最奥に、それはあった。俺は岩陰に身を潜めて、様子を伺う。最小限の家具と生活雑貨が並んで、居住スペースになっていた。俺の部屋より広いぞ。

 で、想った通り人間がいた。野盗でなく、俺より少し小さいくらいの女……いや男の子だ。髪が長くて間違えたけど、上半身裸で胸がない。野人かな? ムカつくことに、俺の『果てない小袋』を見てはしゃいでやがる。俺のだぞこの野郎。

 ここは慎重に近づき奇襲を―

 

「ん? 何の音だ?」


 しまった鎧がこすれて軋んだ。やばいぞ動くたびにどこかしらから音が出る。洞窟で反響するからなおさらだ。

 ええい、ままよ。強襲に変更だ。

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