第3話 嗚呼、異世界経済事情
「なんで草むしりなんかしなきゃいけねえんだよ……」
「あ~だいきちサボってる!」
「ちょっと休んでるだけでしょうが!」
さて、衣食住は保証されている(過酷&命にかかわる労働の代わりに)俺だが、人間は強欲だ。娯楽(本とか漫画、映画まであるぞ。剣と魔法の世界にこういうのあるとテンション下がるよなあ)は欲しいし、下剋上だって諦めてない。
というわけで、金が要る。娯楽は自分じゃどうにもできないし、強くなるには業であるスキルや魔法を教えてもらわないといけないし、それがあっても使いこなすために、魔物なんかと戦って経験を積む必要がある。もちろん強い装備だってないとな。
『マキュラール』だと、魔法やスキルは、まずその基本を誰かから教えてもらって練習、使いこなせて初めて習得できる仕組みだ。
珍しかったり強いスキルを持つ奴は少ない、なら当然教えてもらいたい奴が群がる。それを嫌がって、法外な値段だったり、出来っこない試練の達成をそいつらが要求するのが普通なのだ。ちなみに3悪人は才能ありまくりとかであちこちから進んで教えようとする連中が集まってる、実にずるい奴だ。
悲しいかな、俺には金も才能もないらしい。幸いこういう世界にありがちな『冒険者ギルド』が隣村にあって、時間の合間を縫って俺でもできる依頼をこなしながら資金を稼いでる。地道な努力以外は嫌いじゃないけど好きでもないんだぞ。おまけにこれだってあいつらが魔法で言葉も文字もぺらぺらにしてくれたからありつけたんだ。どうにかなりたいよもう。
「だいきち! これねっこからぬけてない!」
「はいはいすいませんねえ」
おんぼろ教会で、草むしりを5歳児とするのは色々堪える。ひび割れ、苔むして廃屋でもまだ綺麗に見えるってんだから相当だ。ここまでおんぼろだと建物に目がいって、草なんて気にならないと思うんだけどなあ。
「こんどこっち!」
「はいはいはい」
依頼主様には逆らえねえ。
リオはお得意さんの一人で、シスター見習いの褐色幼女だ。髪のボリュームがすげえ、比喩じゃなくて体と同じくらいの長さがあるぜ。依頼は大体神父様から言われたお手伝いのお手伝いで、今回の報酬は250。こいつの小遣いじゃこれが限界なんだろう、相手にするのは俺くらいなもんだぜ。
「きゃっ」
「おっと」
リオが俺の腰に抱き着いた。なんだ? また蛇の魔物でもでたのか?
「あ、あれあれ!」
「どれどれ」
リオが指さす茂みの下から、白い何かが見えた。
「うお⁉」
近づいてそれが何かがわかった。白骨化した足の指が、茂みから突き出てた。べこべこに凹んだ汚い鎧から覗く手足は完全に白骨化し、頭だけが少し離れたところに転がっている。首を刈られたか、死んでから魔物が食い散らかしたか。こういうのを見ると、異世界にいるって気になるなあ。あっちじゃじゃおばあちゃんのくらいしか間近で見たことないしな。……おばあちゃん、安らかに。
「お、おいのりするね……」
おお、幼いながらもしっかりしてる。将来立派な聖職者になるでしょう。
俺もついでに一緒にお祈りし、早速鎧を剥ぎとりにかかった。草むしりに手袋してて正解だ、骨を素手で掴むのはやだもんな。
「あ~! なにしてるの⁉」
「こんなんでも金になるもんね」
「そういうの、いけなんだよ!」
「ふ、甘いなお嬢ちゃん」
所詮この世は弱肉強食よ。こっちに来たてのころ、3悪人は鎧をはぎ取って魔法で骸骨を操り人形にしてこき使ってたぞ。何百人単位で。それに比べれば俺なんて天子様だ、ちゃんと埋めてやるつもりだし。
「まあまあ、後でお菓子買ってやるから―」
小手を掴んだ瞬間だった。
粗悪な鉄製のものに見てた鎧は堅さを失い、意志を持った軟体生物のように変形した。小手だけじゃない、鎧全てが溶けたみたいに地面に流れ落ち、俺の体に這い上がってきやがった。
「うおおお⁉」
「だ、だいきち!」
「ど、どいてろ!」
なんとかリオを突き飛ばした。
妙な鉄はあっというまに俺の体にまとわりつくと、また同じべこべこの汚い鎧の形に収まった。恐る恐る触ってみる、感触は堅い鉄だ。まぎれもない鎧だ。
何が起こったかって? 骸骨が纏っていたはずの鎧が、そっくり俺に移ったんだよ。
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