第2話 嗚呼、異世界残酷物語
まあ聞いてくれ。
我が父、大螺厳中吉はその父大螺厳小吉(つまり俺のおじいちゃん)がそうだったように、白金財閥の運転手だった。……というか細々した雑用をさせられる召使だな、悲しいことに。現代社会の歪、永遠に続く格差の象徴なのだ……。あ、それなりに金はもらってるからな念のため。
お父ちゃんについて、俺はなんの怨みもない。俺を育ててくれたし、気は小さいけど善良で尊敬すべき人だ。お母ちゃんもおじいちゃんもおばあちゃんだって大好きさ。
問題は白金織姫だ。俺が将来尽くさなきゃいけない、いっこ上のはねっかえり娘。生まれてからこいつのわがままにつき合わされ、俺は心休まるときがねえ、こいつのくそ親父だってまだまともだってのに。
小中高と続いた学校生活はまさに地獄。俺だって勉強や運動ができないわけじゃない(成績は真ん中低めくらいだし、ボクシングは結構強いんだぜ?)のに、いつもトップの織姫に見下され、周りも俺をコケにしやがる。おかげでボクシング続けるモチベーションにはなるけどよ。
織姫の面倒を見るために裏口入学させられたのが、お嬢様お坊ちゃま御用達の白帝学園だ。成績だけじゃ入れねえ、金と地位のいるタイプの高校な。
ここから俺と同級生で副会長の鏡真矢、後輩で会計の都戸よしなまで加わりやがった(ちなみに俺は書記だ。やりたかったわけじゃないぞ、織姫の野郎の差し金だ)。負けず劣らずの悪魔どもの襲来で俺の暗黒時代はさらに荒廃の一途をたどったのだ。まさに生き地獄、神も仏も俺を苦しめるのにご執心らしい。
けど、人間腐らずにやってくもんだよな。
ある日、わが生徒会の面々はこの剣と魔法の織り成す異世界『マキュラール』に飛ばされたのであります。
正直万歳したね。だって、こうなりゃ俺の天下だ。お嬢様とは根性が違うし、おまけにボクシングって特殊技能も持ってる。さらにいい男だ。
俺の悲願はかなったも同然だ、泣きつき縋る織姫たちを奴隷にし、金と権力と女を侍らせて向こうじゃ絶対できなかった下剋上だ。
飛ばされて数時間。どうにか状況を理解したところで、俺は向こうとそんない変わらない夜天に堅く誓いを立てたのだった。
「大吉い! 洗濯まだなのお⁉」
「今やってますよお」
天は俺に冷たい……。
その日のうちにどうにかたどり着いた村で、織姫たちはあっさりここの言葉を理解しちまいやがった。そんなんありかよおい。
次の日には生活手段、また次の日には政治情勢って感じで、それからはあっという間だ。今や大国にも一目置かれる、『三天女』とか言われる大魔法使いになっちゃったのだよ。そんで色んなとっからの誘いを全部蹴って、結構数自体はいた俺らと同じような人たち(向こうで言う行方不明者とか神隠しとかの理由の何%かは、こっちに来ちゃったかららしい)やら孤児やらを集めて村をつくっちまった。いよいよ国として独立しようなんて話になってる。
俺? ……言わなきゃだめ? ……わかったよ。俺にはチートっぽい力も、レアスキルもなかったんだよ。
資質を見てくれる鑑定士の人に「平凡中の平凡」って診断されちまった。魔法の才能に至っちゃゼロ。ボクシングのおかげで少し格闘が高い一般人にはなれたけど、結局待ってたのは向こうと何にも変わらない日々プラス、織姫たちが開発した新魔法を魔獣に試すときの囮要員兼、雑用兼、……。
あ~もう。
「やになっちゃうよ~!」
「大吉い! うっさいわよ!」
「! す、すいませ~ん!」
ちくしょう、異世界なんて大っ嫌いだい! こんなのおかしい! 普通俺が織姫たちの立場になるはずだろ⁉
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