第22話 間に合った理由

美来は教室に駆け込む。それと同時にホームルームの開始のチャイムが鳴った。

「ま、間に合った」

「余裕でセーフなのに何してんだ?」

顔を上げると席に着いているレゲインが見下ろしている。

「え?」

「見てのとおり、あいつ今日も遅刻だよ。本当に教師かよ」

「カクランも迷ってるのかな?」

「さぁな。バムは?」

レゲイン心配してるのかな?

「それが、部屋にいなかちったんだよね」

「かんだまま何もなかったみてぇに続けるな」

見事に噛んだ美来にレゲインは勢いのない突っ込みをする。

「レゲイン、フード取ったら?」

美来は立ち上がりレゲインのフードに手をかける。レゲインは素早くフードを押さえる。

「やめろ、お前記憶力ゼロか? 前も取りやがったのに! 顔見られたくねぇの」

「えっ? 前……? ごめん、忘れっぽくて」

すると近くに居たソテが口を挟んできた。

「あら、そんな醜い顔なの?」

レゲインを嘲笑っているが本人は嘲笑われたのを無視して本を読んでいる。

「おはよ、ソテ」

「敬語にしてくれない?」

「私は敬語ですよ、ソテさん」

ソテの美来に対しての言葉に紺のショートヘアで猫耳のカチューシャを着けた女の子が答える。

「あなたに言ってないわよクロ」

--ガンッ!

ドアを開けたとは思えない音でドアが開きカクランが入ってきた。

「間に合った……」

「先生、間に合ってないよ?」

犬の男子がそう言う。

「一時間目前なら間に合ってるんだ」

遅刻常習犯のような言い訳を教師がしていいのかな?

「あと三週間でテストでその一週間後に摸擬戦があるからね」

カクランは顔を上げ停止する。

「バムはどうしたの? 休み? ビルちゃんからは朝出ていったって聞いたけど」

今度は皆が固まる。

「……僕、変なこと言ったかな?」

この時間はいつも寝ている筈のナマケモノのアイマスクを着けた男子が言う。

「あの寮監はちゃん付けされる齢じゃないと」

「そうか? 女の子は何歳でもちゃん付けできるよ」

笑顔でそんなことを皆の前で話すカクランは見るに耐えないほど恥かしい姿だった。

--コンコン……。

ノックがして皆が入口を見る。教室の入口では背の低い教頭がカクランを見ていた。

「少しいいかい?」

カクランは廊下に出てドアを閉めた。教室の中がざわつく。

「どうしたんだろ?」

「知らねー」


「カクラン、君宛だが」

教頭は白い封筒を渡す。

「失礼ながら読ませてもらったよ」

「これは、何処で見つけたんですか?」

「君の部屋のドアの隙間だよ。何故、報告しなかったのかね?」

「あっ、いえ、知らないです」

カクランは誤魔化そうとするが無駄だった。

「午前が終わりしだい、あの二人を連れて私の部屋に来なさい」

「分かりました、手紙には何と書かれていたんですか?」

「後でわかるだろう」

教頭は手紙を振り戻っていった。


「美来、奢ってくれんだよな?」

「へ?」

「忘れんなよ」

カクランが戻ってきて話を続ける。

午前の授業が終わりレゲインと宮殿のような図書館に来ていた。

「レゲイン、バムが心配じゃないの?」

「何で? あいつが勝手に消えただけじゃねぇか。どうでもいいな」

そんな……他人事なの?

レゲインの反応に肩を落としていると背後からその肩に手を添えられた。

「へぇ、カクランは思いやる事を教えないんだね」

その人物を見たレゲインは後ろに飛び退き間合いを取った。

その人物はアンバランスな長さの黒髪に爬虫類のように縦線の入った黒目で茶色の制服を着ている。

「初めまして、シュヴァル・メランです、メランでいいよ」

「何でドラゴンが……しかもその服、この学校と相性悪い奴だな」

メランは蔑む様な笑みでレゲインを見た。

「メランはカクランの知り合いなんですか?」

「あまり良い仲とは言えないけれど」

優しそうな笑みを美来に向ける。

「美来、レゲイン」

名前を呼ばれ二人はそっちに気をとられた。その一瞬の間にメランは姿を消した。

「ちょっと来てくれるかな?」

名前を呼んだのはカクランだった。

「何だよ、女だけじゃ飽き足りず男もナンパ?」

「んなわけあるか! 気持ちわ……二人を連れて来いって教頭に呼ばれたんだよ」

レゲインは嫌な顔一つせずカクランについていく。美来は嫌々ついていった。

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