第20話 奢れる理由
カクランは仕事を終え部屋に戻るため寮の前にさしかかった。
「今日の手紙はもう見た?」
「っ!」
突然後ろから囁かれる。驚き振り返るとヘルバが立っていた。
「へぇ~女の子からの手紙だったんだ? うれしいな」
ひきつった微笑み方でカクランはそう言った。
「魔女を前にして冷静でいられるのかしら? それとも、もう冷静でない?」
「ドラゴンの方が恐いだけ。僕に何の用かな? それか、デートのお誘い?」
「残念ながら、あなたを殺す事はできないのよ。契約でね」
「僕を殺すな、なんて誰が?」
「さぁ? 貴方って人殺しだったっけ?じゃあねフフフ」
ヘルバは歩いて去って行った。カクランは止めようとしたが思いとどまり額の汗をぬぐう。
部屋に戻るといつものように手紙が挟まっていた。ベット横の床に座りおそるおそる手紙を見る。
君はあの時の事を忘れてるんじゃないか?
「っ……」
息ができず頭を抱えて倒れ込む。
「違う……オレはそんな事っ」
カクランの代わりに前にアウラーが立って授業をしている。
「カクランどうしたんだろうね?」
美来はバムに聞くが返事が来ない。
「バム?」
「え? あ、何?」
「だから、カクラン」
「心配なの? あの先生に後で聞いてみればいいんじゃない?」
「うん」
授業が終り教室から出て行こうとするアウラーをとめる。
「え? カクちゃん? ふふっ心配してくれる子いるんだね」
美来は嬉しそうに笑っているアウラーを不思議そうに見る。
「魔女に殺られたとかじゃないよね?」
「最近、二人ほどそういう人出ているけど、カクランは大丈夫だよ。男子寮九階の102号室にいるから後で行くならついでにこれ届けてあげて」
そう言って紙とお金を渡して出て行った。
紙には『頭痛薬買って行ってあげて』とある。レゲインは紙を覗き見る。
「あいつ体調崩してんの?」
「大丈夫かな? 行こう?」
「今日は班で回されてる当番だ」
「当番?」
レゲインは依頼などの資料を見ながらペンをはしらせる。
「お前ら手を動かせよ。この事務職を俺一人にやらせるなよな」
そう言って机に伏せているバムにペンを投げつけた。
「痛い、何すんのゲレイン!」
バムはそばに立ててあるペンをレゲインに投げつけ始める。
「紙に書けよ……」
レゲインは本でペンを防いでいた。
「なるほどこれが回されてる当番……でも、なんで事務職までやるの?」
班で行う依頼の報酬はお金の場合だけ学校の方にその三割が入ることになっていた。一週間分のそれを資料にまとめさせられていた。
「警備官の職につけなくても事務職できるなー他の場所で」
棒読みだそれより何本ペンを持っているのかバムはまだ投げつけている。
「そのためなの?」
「俺、知らねぇ、何となくで答えた。美来これ持ってって」
レゲインは書き終えたものを美来にわたす。
「え、私が!?」
そう聞くとただ頷く。
ひどいっ!
「何時間かかっても届けてきます……」
美来はトボトボと出て行った。
「美来ちゃん犬じゃないんだからぁ、私もついていくよ」
バムは残りのペンをレゲインに投げつけて美来の後を追う。
長くて分かれ道の多い廊下を美来はトボトボと歩く。
どっちか付いて来てくれてもいいのに。
すると後ろから肩をたたかれる。
「美来ちゃん」
「バム!」
「私もついていくよ」
「ありがと、迷いそうで困ってたの」
「美来ちゃん方向音痴だもんね」
美来はバムを見てはにかむ。すると何故かバムは暗い表情になった。
「美来ちゃんは私とゲレインどっちが大事?」
「え? 二人とも大事な友達って」
戸惑いながらも答えるとバムは足を止め美来の方を向く。
「嘘……」
「嘘じゃないよ」
「嘘だよ! 美来ちゃんはいつもゲレインの事ばかり考えて私の事なんてなにも……ゲレインなんて私や美来ちゃんの事友達とも思ってないんだよ!」
バムは叫ぶようにそう言った。美来は突然のことに何も言えなくなっていた。
何でそんな事いうの?
「美来ちゃんも、私の事そのうち見放すんだ……」
「そんなことしないよ」
「ごめんね、美来ちゃん」
バムはそう言って一人で行ってしまった。
「どうしちゃったんだろ?」
美来は頭を振り職員室に向かう。
班の部屋に戻るがバムは戻っていない。
「どうした? 入口に突っ立って」
「え、うん、バムは?」
「は? 戻ってきてねーけど……遇わなかったのかよ?」
美来は横に首を振った。
戻ってないんだ……怒らせたのかな?
「遇ったけど怒られて。カクランの所に一緒にいってくれる?」
「嫌だ」
「何か奢るっていったら?」
レゲインは考え込み少しして聞く。
「なんでも? 一度も依頼すら受けてないのに金あるの?」
「うん、なんでも。お金は入学祝いにカクランから一万円押し付けられたし」
「分かった、行く」
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