第13話 医療館の理由

「逆井さーん大丈夫? 傷は浅いからすぐ治るけど」

「はい……少し痛いけど」

保健室で白衣を着てヤギのコスチュームを身につけた中性的な人が美来の手当てをしていた。

「逆井?」

「この子の苗字だよ~」

思えばこの世界に来て初めて苗字で呼ばれた気がする。

「これで大丈夫だよー逆井さ〜ん」

驚く事に怪我自体を治してくれ、服まで直っている。

「レゲインと知り合いなんですか?」

美来がそう聞くと笑い出す。昨日から笑われてばかりのような。

「あはは、そうだね、そうだよー。ねぇ? レゲインちゃん」

そう言ってレゲインを見るがレゲインは軽く睨んで言った。

「余計な事言うなよヤギ。あとその魔女達と同じ呼び方するな!」

「あは、レゲインちゃん、ちゃんと名前で呼んで。私が学生だった時にあってね、今じゃ可愛い後輩だよ」

ヤギと呼ばれた人は能天気のようでずっと微妙な笑い方をしている。

「所で逆井さん。レゲインちゃんに抱き抱えられてきたって事はもしかして彼女?」

二人はその一言に驚く。

「はい!?」「はぁ!?」

「んなわけねぇだろ! 勝手な勘違いするなよな」

「違います、そんな風に見た事ないですし」

美来とレゲインはきっぱりと否定した。

「冗談だよ、こんな冷たいレゲインちゃんに彼女できるわけないもんねー逆井さんは勿体無いし」

一人でごたごた言い出したヤギを放ったらかして二人は保健室から出て行く。


「保健室と言うより医療館的な感じだよね」

レゲインは建物を見上げた。

「学生同士で怪我をするような対戦があるんだから当たり前だろ」

「えっ! 対戦って?」

「授業だよ。犯罪者と渡り合うにはそれなりに強くないと死ぬだろ? だからお前も戦わないといけない時があるんだよ」

それを聞いてさっきの出来事を思い出し切られた箇所を押さえた。

「そっか、怖いな……私も戦うのか」

「今の美来は戦闘力ゼロに等しいし、俺でも魔術を使わなくても倒せるな。他の奴と同じ時期に訓練しても大きな差が出るだろうしどうするか」

レゲインはやけに真剣に考えてくれている。

「レゲインってそんなにも強いんだ」

美来が感心するとレゲインは表情を変えずこちらを向く。

「今のは男か女かの差だ、魔術無しの俺は動きが軽いだけの奴だ」

ただ単に美来が弱い事を象徴させただけだった。

「そう、私そんなに弱いんだ……」

「そうだな、さっきの事もあるしあいつなら脅して教えさせれるかもな」

「魔法って、魔石で使うんじゃ?」

「魔石は魔力が無いやつでも使えるってだけで、簡単な魔法しか使えないんだよ。オレは自分の魔力使ってんだよ」

「へぇ~難しい」

「そんな、難しいこと言ったか?」

呆れ気味に呟いた。

レゲインは暗くなってきたのもあり今日は素直に諦めてくれた。


寮に戻りレゲインと美来は離れた席でそれぞれ夕食を食べていると、夕食を乗せたお盆を持ったバムが美来の向かいの席に座った。

「バム、どこに行ってたの?」

「こっちのセリフだよ。ゲレインとどこに行ってたの?」

「どこって怪我……あっ」

森で待っていると言って置手紙も無しにその場を離れたことを思い出し慌てて言い直す。

「ごめんね。ずっと森で待ってた?」

「美来ちゃん……もしかして、私の事忘れてた?」

「まさか、忘れるわけないじゃん」

「そう……」

バムは何処かを睨みつける様に見ていた。美来の斜め後ろの席だろう。気になり振り返ろうとするとバムが話し出す。

「美来ちゃん、明日の放課後一緒に何か食べに行かない?」

「いいよ。レゲインも誘うんでしょ?」

美来は気前よくそう言ったがバムが良く思はなかったのには気が付かない。

「え……うん、そうだね」

「でも、先に班の部屋行こうよ、鍵渡されたのに見てないしね」

「楽しみは覚えてるんだね美来ちゃん」

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