5.nobody knows

学校に着いてから、昇降口を廊下へ抜け、生徒たちが集まるピロティーへ向かうと数人の知り合いがいた。

その中のひとりクラスメイトの鵠沼杏奈が、ボクを見ると、歩いて来た。彼女もまた例の女子バスの一員である。


「なぁさっきの沢山のサイレンの音、何だったんだ?」


「駅前の雑居ビルの猫カフェから火が出たんだって。」


「猫カフェ?」


「そうだよ。丁度通りがかりに観たって子がいて、LINEでその話題で持ちきりだったもん。ビルの出入り口から猫の大群が飛び出して来て、凄かったんだってー!」


「マジかよ!?」


「死にそうな時は猫も必死になるんだね。」


「そりゃあ死にたくないのは、人も猫も一緒だからな。」


「でも猫はみんな助かったのに、ひとは何人か煙に巻かれちゃったらしいの。」


「低いところ程、煙は少ないっていうしね。背が高い分、煙に巻かれて一酸化炭素中毒になり易いんだろう。」


「そうなんだー。で、あんたは何してるの?」


「いや、学校に何かあったんじゃないかと思ったんで、急いで戻って来たんだ。」


「心配性だねえ~?誰か気になる人でもいるのかな?」

杏奈が悪戯っぽい目で茶化す。


「そ、そんなんじゃねーよ!」


「ホントかなぁ~?」


「嘘じゃねえっつーの。そんなことより、なにが原因なんだ?」

ボクは誤魔化す為に元の話に戻そうとした。


「その原因っていうのが問題でさ~。」


「問題?」


「うん。ほら上の雲に車とかが張り付いてるじゃん?」


「ああ。」


「あそこからガソリンとかの燃料が漏れて落ちてきてるんだって。で溜まってた所に放火されたとからしいよ。」


「マジで!?」


「うん。ネットニュースの記事に出てる。」


「危ねえなぁ。もし空に引火したらどうなるんだよ。」


「Σ空が燃えちゃう?怖すぎて考えたくない。」


「燃え尽きたら、その残骸も堕ちてくるだろうしな。」


「めっちゃヤバくない?」


「ヤバいなんてモンじゃない。あちこちに炎の雨が降り注ぐよ。」


「エーうちの真上にも観光バスが有るんだよ。」


「俺のうちなんて新幹線だ。まあそうそうヤル奴もいないだろうけどね。」

しかし、911の時の事を考えたら、テロ被害はあの時の比ではない大惨事となりそうだ。

大体、雷や空気中の静電気なんかが、気化した燃料に引火する可能性だって十分あり得る。


「うん。だよね。」




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