白い息を吐いて

時雨 なつ

短編

いつも通りの平日、いつも通りの人、いつも通りの時間。駅で僕は、電車を待っていた。


今日の情報を集めるためにスマホを開いてみる。

毎日、毎日、うんざりするような事件の数々が飽きもせずに起こっている。ため息ひとつ。

自分の思いのこもったため息が白い息として吐き出される。

重い思いのはずなのに、すぐに消えてしまう僕の思い。

なぜ、こんな風に事件を起こしてしまうのか…

僕はいつもこの世の中を蔑んでいた。


ああ、電車が来たようだ。いつも通りの時間だ。

乗り込もうとすると普段は何も受信しないスマホが鳴り出した。

手の中で震えるスマホを写し出した画面には“future”と書いてあった。


future?何だろうか…?自分がいつこのかけてきている電話番号を登録したのだろうか…?

覚えていない。


電話にでてみると、スマホの向こうから聞き馴染みのある声が聞こえた。


「もしもし?誰だと思う?いやー分かんないよね。

今 君にこの電話の内容が伝わってると良いなー

特殊な手段で君のところまで来ちゃったし…へへ。

時間がないから手短に話すことにしようかな。」


僕は何も言わず、聞いていた。

「多分このあと、驚くべきことが君に待ち受けているだろう。そのとき君はどうするのか、楽しみにしているよ。ははは。」


…電話が急に切れた。

乾いた笑いをするのが癖なのだろうか。

乾いた笑いをしているのに、なぜか潔さげで、嬉しそうであった。なんだろうか。


それよりも…驚くべきことって何だろう。

『キャアアアアアアアアア!』


駅にいる女性が金切り声をあげた。

車が…宙に浮いていた…

あ…このままでは…


「車が駅に突っ込みそうだぞ!」駅員が叫ぶ。


走馬灯のように時間がゆっくりと流れていた。


ワゴン車。女の人。スマホを片手に。笑っていた…?悲しそう…?それとも懐かしそうに…?


…いや、泣いていた。

その光景をたくさんの群衆が、たくさんのスマホが見つめていた。


自分も馬鹿みたいにぽかんと口を開けて。


どうすれば良いか分からず、立ち尽くす。


また僕のスマホが何かを受信した。

「驚いてくれましたか?私からの精一杯のプレゼントです。この時代のあなたはこうでもしないと驚かないでしょう。


…どうかこれからも精一杯生きてください。 私の唯一の願いです。




さようなら。 Dear 過去の自分へ」


僕の手の中のスマホが震えていた。目の前の液晶が濡れた。


…………なんなんだよ…これ

読み終えた瞬間、走馬灯のような流れが解放され、

いつもの、いつもの朝の、いつもの日常に変化した。


目の前の事件を残して。

自分の命を懸けてまで僕に喜怒哀楽を教えてくれたなんて。


自分ながらに馬鹿なことをしやがって。

でも……喜びは教わってないぞ…。


僕の思いとは裏腹に、今日も空は清々しいほど綺麗だった。

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