第5話 ふたたび。
それから数ヶ月が経ちました。
わたしたちは当面、移転をせずによりいい条件の物件を探すことにしながら当時の事務所での業務を行っていました。
そんなある日、東京ハウスの千葉社長から電話をいただきました。
例の物件をお断りする際に千葉社長には
「こちらの条件に見合いそうな物件が見つかった場合はご連絡をいただけますか?」
と伝えていたので、てっきりなにかいい物件が見つかったのだと思いました。
しかし千葉社長はわたしたちが借りるのを断念した物件の大家さんからひとつの提案があったことを口にされました。
それは
「リフォーム費用を出すことはできないが家賃を半年間フリーレント(家賃が無料になること)にし、さらにそのさきの半年間は家賃を数万円分値引きしてもいい」
という驚くべき提案でした。
その提案に相真工務店さんの見積もりを足した額は、仮に移転せずに現状の物件を一年間借り続けた場合の家賃総額とほぼ変わらないものでした。
つまり一年間は現状の家賃を払っていると考えればさほど大きな出費にはなりません。
さらに来年からは家賃が下がるのです。これならお金の面はなんとかなりそうです。
しかしあの老物件です。なにが起きるかわかりません。
それでもわたしたちはあの物件を借りることにしました。大英断でした。
なぜここまであの物件に執着しつづけるのか、当時はその理由がよくわかっていませんでした。
ただ、いちど自ら手放したものがむこうからやってきたのですから縁、というものがあるとすればこれもひとつの縁なのかもしれないと考えました。
ともかく。
わたしたちは移転を決め、賃貸契約を結びました。
あの元とうふ屋がわたしたちのあたらしい事務所になるのです。
忙しくなってきました。(つづく)
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