第2話 物件内覧。

翌日、物件を管理している不動産屋へと向かいました。


元とうふ屋であるその物件から歩いて一分ほどの場所に不動産屋「東京ハウス」さんはありました。


物件を見せてほしいむねを伝えると、すぐに見せてくださるということでわたしたちは女性の担当者さんとともに物件へと向かいました。


昨夜は締められていたシャッターを開けると驚きの光景が広がりました。


物件は予想以上に古く、老朽化していたのです。


二階建ての一軒家、といえば聞こえはいいですが、なにせ元とうふ屋ですから、一階はシャッターを開けると扉もなく、床はむき出しのコンクリートが波打っているほか、中央部には排水溝が横たわっていました。


奥は土間になっていて、流しやトイレ、増築したお風呂がぎゅうぎゅうに押しこめられています。


階段を上がった二階は住居として使用していたようですが、畳も古く、壁に塗られた壁材がぼろぼろとこぼれ落ちています。


とてもじゃありませんが、このまま事務所にするのはおろか生活することすらできそうにありません。


「いままでも飲食店希望のかたが何度か内覧に来られているんですけど、飲食店だとどうしてもリフォーム費用がかさむようで契約にはいたらないんですよね」


担当者さんがそうおっしゃられました。


たしかに飲食店にするには排気口や空調など大がかりなリフォームが必要そうです。


わたしたちのように事務所として使おうと考えているものでさえ、おおがかりな手直しが必要なのはすぐにわかるくらいですから飲食店だとなおのこと大変なのでしょう。


一、二階を内覧させていただいている途中で大家さんにお会いすることができ、ごあいさつさせていただきました。


丁稚奉公として上京し、その後、この場所で長らくとうふ屋を営んできたことを聞かせてくださり、


「ぜひ事務所として使ってください。よろしくお願いいたします」


と言ってくださいました。


とはいえ、この老朽化は尋常じゃありません。


大家さんの言葉はうれしくもあるのですがなんとも複雑な心境でその場をあとにしました。


その後、東京ハウスさんへ戻り、社長である千葉さんと契約条件の確認をさせていただきました。


それはとても喜ばしい内容でした。


まずは家賃。


あらかじめネットで確認していた額よりも大幅に下回ることがわかりました。


さらに契約費用もよい条件を提示してくださいました。


住居物件の場合は「敷金」「礼金」「仲介手数料」「前家賃」が基本ですが、店舗物件は「敷金」に変わって「保証金」が設定されます。これが高額なのです。


5、6ヶ月はざらですからどんなに家賃の安い物件でも契約費用は上がってしまいます。


しかしこの物件の場合は家賃一ヶ月ぶんでOKとのこと。


これは助かります。


それ以外にもほかの物件への移転にくらべて契約の費用が大幅に少なくてすむことが東京ハウスさんとの話でわかりました。


問題はリフォームです。


素人目に見ても貸店舗のリフォームにしては基礎工事に相当な手間がかかりそうです。


内装を自由にしていいという条件は魅力ですが、素人目にも大がかりな補修工事が必要な物件であることはわかります。


とはいえ、こちらは素人。


いったいどれくらいの額になるのかは検討もつきません。



なので千葉社長にリフォーム業者さんを紹介していただき、簡単な見積もりをお聞きすることにしました。(つづく)

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